第60章 主と酒と
暫く雪に見惚れていると、隣から
「ごちそうさまでした。」
と、声が聞こえた。そしてすっと立ち上がったので、すかさずその腕を取る。
こんな面白い子をみすみす逃がすなど、愚の骨頂というものだろう。
「え…?」
対して、腕を取られた主は困惑気味に声を上げた。
アタシはにやりと笑って彼女を見上げる。
「どこ行くんだい?まだまだこれからじゃないか。」
「え、いや、1本しっかり貰いましたよ…?」
主は少々及び腰に腕から逃れようと力を入れている。
その顔は些か引き攣っているようにも見える。
「まだまだ。序の口じゃないか。遠慮することないよ!お酒ならたんとあるんだ!」
立ち上がって、がしりと主の首に腕を回すと、ピクリと彼女が固まったのが面白かった。
「さぁ、宴はこれからだ!!」
「いやいやいや…!話が違う…!」
動揺する主を気にすることなく、アタシは彼女を抱き込むように座らせて、盃を掲げた。