第59章 呼び名
「鶴丸さん、燭台切。明日は第一部隊で出陣してもらいたいのですが、いけますか?」
「OK。任せて。」
「あぁ、俺も行ける。」
鶴丸はちらりと燭台切を見てから答えた。
「三日月さんも一緒に行ってもらうので、フォローをお願いします。三日月さんは実地で感触を確かめてきてください。」
「あい、分かった。」
「薬研は、兄弟と小夜さん、鳴狐さんと一緒に遠征に行ってください。偵察が目的なんで、失敗しても問題ありません。とにかく帰ってくることを優先してください。」
「わかった。」
「連絡事項は以上です。解散してください。」
レンの言葉を合図に、刀剣達は各々散って行く。
鶴丸は、ふぅ、と小さくため息をついた。
「鶴、どうしたのだ?」
鶴丸が声に反応して振り返ると、いつもの穏やかな三日月が見下ろしていた。
「…ちょっとな。」
鶴丸は徐に立ち上がる。
「レンは…、主はいつになっても呼び名を変えないから、何でかなって思っただけさ。」
少し寂しそうに笑う鶴丸を見て、三日月は笑みを引っ込めた。
三日月から見て、レンと鶴丸は良い関係のように見える。そして、レンの態度は誰にでも同じで、誰を特別扱いしていることもない。
「それを主に言ったことはないのか?」
三日月の問いに、鶴丸は首を振る。
「言いづらいっていうか、今更って感じがしてなんだか言えなくてな。」
そう言って困ったように笑った。
「さて、そんなことより今日は厩の当番だ。三日月、行くぞ!」
「あぁ…。」
三日月は鶴丸の後ろを追いながら考える。
三日月自身、呼び名が”三日月”だろうが”宗近”だろうが、大して拘りはない。
けれど、鶴丸は気にしている様子。
なんと呼ばれたいかは知らないが、きっと親し気に呼ばれたいのだろうことは伝わった。
ならば、一つ仕掛けてみようと思い立つ。
三日月は鶴丸の後ろでそっと笑った。