第58章 鶴丸の願い
そこまで黙って聞いていた三日月は、彼等のやり取りに思わず吹き出した。
一同はぎょっとして三日月を見る。
「すまんすまん、余りに愉快な劇を見ているようで、些か驚いた。」
そう言った彼の周囲には禍ツ神の影は消えていた。
「靄が…、消えてる。」
レンが酷くがっかりしたように呟くのを、加州は目ざとく拾い、彼女を小突いた。
「久々に楽しい人間を見た。そなたが次の審神者か?」
「…そうですね。」
レンは意気消沈して答える。
その様子を三日月は面白そうに見ながら、レンに頼んだ。
「これを解いてはくれぬか?俺はもう暴れたりはしない。」
それを聞き、レンは渋々術を解く。
「ふむ。中々に面白い技だったぞ。
して、主よ。一人旅なら俺がお供をしよう。」
三日月はレンの手を取って平然と言う。
「…結構です。誰のせいで折角の一人旅計画が潰れたと思ってるんですか。あなたが来たら本末転倒ですよね。」
レンはあまりの悔しさに、つい本音を言ってしまう。
しかし、三日月は大して気にもしていない様だ。
「なに、行きたいのならば行けば良いではないか。
ただ、そなたは大事な審神者故、皆が過保護になっているだけだ。
それは、俺がついて行けば何の問題もなかろう。」
三日月はにこにこと上機嫌に笑いながら宣う。
「いや、問題大有りだから!
いやだよ、もう!レンが一人増えたみたいな感覚!」
加州の苛立ちは遂に頂点を迎え、彼は髪を掻きむしる。
「だから、私は一人旅がしたいんだよ。」
「もう、お前は黙っとけ。」
大倶利伽羅に言われ、レンは仕方ない、とそっと息を吐き出した。