第13章 薬研藤四郎の手入れ
レンの影分身達は敷地内を特に厨の周囲を中心に探していた。
その内の1人が燭台切りの姿を捉える。
「いたよ!」
厨から少し離れた、畑の様な所にいた。
「私が伝える。」
そう言うと1人がボフンという音ともに消え、情報が全員に伝達され、手の空いている者は転移装置へと向かった。万が一遠征が必要な時の待機だ。
燭台切は薬研のことを聞き、急いで粟田口の部屋に向かった。
部屋の入口にはレンが1人立っていて、燭台切をそのまま中へ促す。
確かに透けている。
下の枕がはっきりと見えてしまっていて、僅かに淡く光り始めている。
これはもう持たないだろう。
「こんのすけがいないので、手入れの方法を教えてください。」
資材である玉鋼は既に薬研の側に準備されている。若干少ない様にも思えるが、五虎退と鳴狐が頑張った結果だ。
これだけの準備をされては、断る理由は無い。
「…僕も詳しく知っている訳じゃない。初代が治しているところを見たことしかないんだ。それでもいいなら教えるよ。やってみるかい?」
レンは大きく頷いた。
燭台切は目を瞑り、一つ呼吸をすると目を開いた。
「まずは薬研君の本体を確認する。」
「本体?」
「刀だよ。五虎ちゃん、それがそうかい?」
「はい。こちらです。」
五虎退はそう言うと、枕元にあった白い包みを開くと、中にはぼろぼろの今にも崩れそうな短刀が一振りあった。持ち上げたらその場で粉々に砕けてしまいそうだ。
何をどうしたらこんなにぼろぼろに出来るのかと逆に感心する。
「レンちゃん、こっちに来て薬研君に手を当ててみて。」
燭台切から名前を呼ばれ、若干戸惑う。
いつもは”君”と呼ばれているだけに違和感を拭えない。
レンは燭台切に促されるまま刀の側に座り、刀に触れてみる。
不思議な感触だ。物なのに物じゃない。
触り心地は鋼のそれなのに、まるで生き物を撫でている様な妙な感覚になる。
ただ、このまま触れていても治るとは思えない。
「…どうすればいいんですか?」
「…何も感じないかい?」
「感じるには感じますが、生き物の感触があるってだけで、触ってるだけで治るとは思えません。」
燭台切は驚いた。
本体である刀に命の息吹を感じられるなど、まずあり得ないことだ。
これはいけるかもしれない。