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君に届くまで

第56章 七海の奪還



「手品は終わりか?」

鴉はそう言うと、一気に距離を詰める。

ガキン!!

レンは振り下ろされた刀を、氷で包んだ腕で受けた。

ピキ…

かなり厚く覆っても、まだ鴉の威力には耐えられない。
レンは冷や汗を浮かべる。

「弱いよね、人間って。」

そう言うと、鴉は片足を浮かせた。

ーまさか…!

蹴り飛ばされると分かっていても、何処にも動けない。
レンは胴体に思い切り蹴り込まれ、一瞬の間に壁に叩きつけられた。

「がはっ…!」

ーやられた…!肋がダメになった…!

レンは咳き込んだ。
僅かに血が迫り上がり、吐き出す。

コツ、コツ、コツ…

座り込むレンの視界に鴉の靴先が映り込む。

「レンさん!」

長谷部の叫び声に鴉が歩みを止めた。
レンが見上げると、鴉は長谷部の方を見ている。

ーまずいな…。

「あんたの狙いは私だろ。目を離していいのか。」

レンは壁に寄りかかりながらも、よろよろと立ち上がる。
それを横目に鴉は鼻で笑う。

「そうだな。殺すなら君を殺してからの方がいい。」

鴉は徐に刀を振り上げた。



初手は防げるだろう。
だがその後は分からない。

“須く命を使い切る。”
かつてリヨクを手にかけた時に、レンが自身へと課した誓いだった。
それをこんなにも疎ましく思う日が来ようとは…。


ーここで果てる私を見て、リヨクは何て言うだろう。

 怒るだろうか。
 それとも呆れるだろうか。

 出来ることなら、もう一度里に帰ってリヨクの夢を叶えてあげたかった…。



レンは、腕を可能な限り氷で覆い迎え撃つ。

ガン!!ピキ…

鴉の斬撃の衝撃が全身に行き渡り、傷を負った肋に響いた。
レンは、膝を着きながらもギリギリで受け止める。

「ぐ…!」

ー初手は防いだ。
 あともう一手だけでもいけるか…?

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