第56章 七海の奪還
――現代にてーー
「この壁から七海様の神気を感じます。」
壁を探っていた長谷部が、触れながら言った。
「どういうことですか?」
壁付近の四隅を中心に調べていたレンは、長谷部に駆け寄る。
「この壁の前に立っていると、かなり多くの神気が流れてきているのが分かるんです。特に壁の中心辺りから広がるように…。」
言いながら長谷部は壁の中心辺りをなぞる。
レンはそれを見て、七海を見た。
ーそれって…。
「もしかしたら…、ぐったりしているのって、それが原因なんじゃないですか?」
「と言うと?」
「神気が多く漏れ出ているってことは、七海さんは強制的に神気を吸われてるってことになりませんかね?」
「そんな…!じゃあ…!」
長谷部は、途端に顔を青褪めさせて七海を見る。
「この壁、早いとこ壊さないと七海さんが危ないと思います。」
ドゴン!!ガシャン!カラコロン…
一際大きな音が響いて2人が慌てて振り向くと、扉を覆っていた氷が割れて弾け飛んだところだった。
建て付けの壊れた扉がゆっくりと開かれ、向こうから鴉が現れる。相変わらず全身真っ黒なコーディネートだ。
レンは、長谷部を庇うように鴉の前に出た。
「あれ、なんかカラフルになったね。」
レンの服装は明るめのジーンズに黒と白のデザインパーカー。
選んだのは加州と大和守だ。
全身ズタボロの真っ黒な忍服よりかはカラフルになったと言えるだろう。
本人は気にも留めないが。
「残念だな。けっこう親近感があって僕気に入ってたのに。君もそう思わない?」
鴉は残念そうに言う。
「心の底からどうでもいいな。おしゃべりしたいのなら他を当たれよ。」
レンは心底嫌そうにバッサリ切り捨てる。
それに気にも留めず、鴉はにっこりと笑う。