第7章 五虎退の頼み
説明をしてもらった事をまとめると、手入れとは資材を元に本体である刀の傷を直す事で、肉体も綺麗な状態に戻る。つまり、レンが五虎退の手当てをしたのはあくまで応急処置であり、何の効果もないという事だ。
「え、手当てしても傷が塞がらないんですか?」
「えと、はい…。すみません。」
けれど、それで納得できた。
燭台切から僅かに漂う血の匂いは、怪我が治らないのではなく、直せないのだ。
「成程…。なら、その資材は何処にあるのですか?」
「て、手入れ部屋に、あると思います。」
「手入れ部屋?」
「はい。…行ってみますか?」
「そうですね。案内してもらえますか?」
辿り着いた部屋の障子を開けると、何とも嫌な空気が流れ出てきた。邪気である黒い靄が薄ら漂っている。
しかも並んでいる敷布団には綿埃が雪の様に降り積もっていて、並んでいる棚は空っぽな上に埃だらけの蜘蛛の巣だらけだ。
「うわ…。」
レンは思わず呻いた。
五虎退はレンの後ろからびくびくしながら中を覗いている。
どこをどう見ても、資材らしき物は見当たらない。
「…五虎退、一応聞きますが…。資材はどれですか?」
「ぼ、僕も、初めて入るのでわかりませんが、ここには無いと、思い、ます…。」
「私もそう思います…。」
パタンと障子を閉めると、はぁ、とレンは大きくため息をついた。
「あ、あの。こんのすけを呼んでみては?」
遠慮がちに五虎退が提案する。
「こんのすけ、ですか?何故?」
「こんのすけは、主様の眷属、だから、です…。」
「…そう、なんですか。」
そういえばそんな様な事言ってたな。
「どうやって呼ぶんですか?」
「”こんのすけ”と、呼びかけるだけで、突然現れるのを、見たことがあります。」