第48章 魂縛りの呪
翌朝、広間の柱にもたれかかって座っていたレンは、目の前を通りかかった薬研に命令を出す。
「薬研藤四郎、座れ。」
彼は不思議そうな顔をした後、レンの指示通りそこに座る。
「薬研藤四郎、立て。」
「何なんだよ。一体。」
文句を言いつつも、指示通り立ち上がる。
「いや、素直に従わないで抵抗してくださいよ。練習にならないじゃないですか。」
薬研は、いよいよ意味がわからず怪訝な顔をする。
「…何をしたいんだ?」
「魂縛りの呪です。割と一般的な審神者ならではの術だって聞きましたよ。」
魂縛りの呪、と聞いて、薬研の顔がわかりやすく強張った。
「大将…、それは…」
「待ったなしです。皆さんはこれに対抗すればいいだけの話です。こんのすけの伝言を聞いていたでしょう?”審神者の命令には従う必要はありません。”って。」
薬研はそう聞いて、ピンと来るものがあった。
「従わなければいいんだな。」
「はい。従わないでください。」
いきます、と一声かけるとレンを纏う空気が少し重くなる。
「薬研藤四郎、座れ。」
抵抗するとなると、多くの気力を必要とした。
「くっ…。」
薬研はレンの言葉に従おうとする自身を必死で止める。
そして見えない糸を断ち切るかのように右足で畳を大きく踏み付けた。
ダン!と音がして、広間に静寂が流れる。
「…断ち切ったぞ。」
「いい調子ですね。」
レンは満足気に少し頷いた。