第23章 手入れ ーその2ー
「…俺達は別に喧嘩を売りにきたわけじゃない。」
「鶴丸さんは思いっきり喧嘩をふっかけてきましたけどね。」
レンの茶々に大倶利伽羅は苦い顔をする。
「…悪かった。後で鶴丸には言っておく。」
「是非そうしてください。訳もわからず、喧嘩をふっかけられても迷惑です。」
どうやらかなりのご立腹の様だ。
「で、本当に何か御用ですか?」
レンは大倶利伽羅の側に腰掛け、気を取り直して尋ねてきた。
「…貞を治してくれるんだってな…。」
「えぇ。燭台切から頼まれたので。」
「…光忠から頼まれたからやるのか?」
「そうですよ。それが燭台切の願いですから。」
「…じゃあ、願わなければやらないのか?」
大倶利伽羅は瞳に険を乗せて問う。
「そうですよ。燭台切から”関わるな”と言われたのもありますが、助けてほしいと言われていないのに助けられないですよ。」
レンは若干戸惑いつつ、ありのままの思いを答える。
それを聞いて、それもそうだ、と思ってしまった。
ー何を聞いてるんだ、俺は…。
大倶利伽羅はそのまま黙り込んでしまった。
レンは何となく、大倶利伽羅の葛藤が見えた気がした。
「…薬研達から聞きました。あなた方は審神者の神気に惹かれるのだと。」
大倶利伽羅は何も答えない。
「…惹かれるからこその嫌悪と慕情じゃないですか?」
先程の彼の険が宿る目は、そういうことなのではないだろうか、と。
「…別にあんたに恋をしている訳じゃない。」
大倶利伽羅は嫌そうにレンを見る。
「知ってますよ。ただ、それに近い何かがあるんでしょう?」
レンは呆れ顔で応酬する。
大倶利伽羅は黄昏の空を見上げながら、ぽつりとぽつりと言葉をこぼす。
「まぁ、そうだな…。葛藤はある…。
治したい…、委ねたくたい…。
慕わしい…、傷つけたい…。
傷に気付いてほしい…、傷つけられたくない…。」
心情を吐露するような言葉は、寂しさが滲んでいる。
レンは理解出来ないながらも、黙って彼の言葉に耳を傾ける。