第83章 時間遡行軍、現る
「いたた…。」
声が聞こえてレンが視線をやると、右腕を押さえながら燭台切の影に隠れる乱の姿があった。
レンは、そういえば…、と自身の左腕に手を当てて確かめる。
すると手にぺとっとした感触があり、まだ止血に至ってない事が分かった。
とりあえず先に乱を優先しようと彼に近づく。
「刀を見せてください。」
「…うん。」
乱は少し苦笑を浮かべた後、素直に差し出した。
鞘から抜くと、二本大きな傷が入っている。
「左腕以外にも怪我があるんですか?」
「ごめん、足もやっちゃった。」
乱はすまなそうに少し身を縮ませた。
「謝る必要はないです。戦闘に怪我は付き物ですから。それより深いですか?」
レンの問いに彼は首を振る。
「ううん、掠っただけ。大した怪我じゃないよ。」
レンはそれを聞いてそっと胸を撫で下ろした。
たが、そのままにしておいていいものでもない。
宿に戻らなければ。
予備の玉鋼は部屋にある彼女のポーチの中にある。
レンはすっと土方の側に行く。
「すみませんが今日屯所へは行けません。」
「あぁ?てめぇは置かれた状況が分かってんのか?」
結論だけ言えば誰でもこうなるだろう。
「怪我を負っているので手当が必要なんです。」
レンは自身の左腕を見せる。
そこには生々しい切り傷があり、土方は少し眉を顰めた。
「…手当なら屯所でやりゃあいいじゃねぇか。薬くらい出すぞ。」
「自分の分は宿にあるんでいいです。」
「てめぇは人の親切を何だと思ってんだ!」
言い方は大事である。
普段から言われているレンだが、今日まで理解する事は叶わなかった様だ。