第81章 幕末へ
レンは、閑静な長屋を眺めながら歩く。
屋内からは人の気配がするが、人の声があまりしない。
雪のせいだろうか、とレンは空を見上げる。
先ほどよりも量が少なくなったが、まだ降り続いている。
まぁ、当たり前だが、家の中にいる方が暖かくていいのだろう。
レンは気にするのを止めて前を見ようとした。
その時、家屋と家屋の間に、男が二人話しているのを視界の端に捉える。
レンはそのまま数歩歩いたが、どうしても気になり足を止めた。
二人とも刀を差していた所を見ると侍なのだろう。
だが、服装が気になった。
一人は編笠を被っていた。
だが、もう一人はフードを被っていた。
羽織とフードは切れ目なく繋がって見えた。つまり袖の広いコートだと思われる。
「レン?どうしたの?」
先を行っていた大和守が、足を止めた彼女に気がつき引き返す。
「…変な人を見たかも。」
レンは通り過ぎた路地を振り返る。
「変な人?」
大和守もレンの視線を追ってそちらに目を向けた。
「そこの路地裏?」
「はい。一本向こう側の道で男が二人話をしていたみたいでした。侍だと思います。
一人は編笠を被っていて、もう一人はフードを目深に被っていました。」
「それのどこが怪しかったの?」
大和守は首を捻る。
ただ話しているだけなら先程もそういう輩を見たばかりだ。
「フードですよ。他の部分は羽織の様にも見えますが、フードが違和感ありありです。」
大和守はそれを聞いて納得した。
表通りで行き交う人を見たてきたが、誰もが傘や編笠を使っていた。
フードを被っている者など誰一人としていない。
そもそもフード付きという服は近代文化の様式である。