第1章 始まり
彼女は狭い隠し通路の様な一本道をひたすら走っていた。
背後から2本、3本と飛んでくるクナイを、自身のクナイで軌道を逸らせつつ、ギリギリで躱す。
「待て!」
男が数人、怒鳴り声を上げながら追ってくる。
「氷遁、氷千本!」
彼女は氷遁で千本を無数に作ると、一斉に背後に投げつけた。
しかし、当たったような手応えはなく、殺気を含む気配は止まることなく彼女を狙う。
全て防がれたか、あるいは避けられたか。おそらく前者だろう。
あれだけの数をこの狭い通路内で避け切れるわけがない。
敵の額当てには木の葉のマークが刻まれていた。
格好からして中忍だろうか。いや、実力を見ると上忍も混じっているだろう。
巧妙にここに追い込まれてきたのも感じられる。
よく統率されていて、戦略を練られている。
ー厄介だな、優秀な部隊だ。
通路を抜けた先にがらんとした広間の様な広い空間に出た。
その瞬間、中二階から多数のクナイが投げつけられる。やはり最初から張られていたんだと理解する。
彼女は咄嗟に体を丸めて、頭と心臓を守る。
しかし、全ては避けきれず数本被弾してしまった。大腿と上腕にはそれぞれクナイが深々と突き刺さる。
彼女は痛みに思わず顔を顰めた。
周囲を確認する余裕もないが、クナイの量からして4部隊か、5部隊はいるだろう。彼女一人に随分な人数だ。
だが止まるわけにはいかない。
止まれば確実に殺られる。
この命は預かり物だ。そう簡単には渡せない。
「もうお終いだ!」
男の声が広間に木霊する。
それに構う事なく彼女は煙玉を数個取り出すと、素早く着火して周囲に投げつけ、煙幕を張る。
正確な位置を把握させない為だ。
さらに影分身を数体出し、敵の足止めをする。
「悪あがきをするな!」
男の怒鳴り声に動じる事なく、広間中央部まで駆け抜け、封の刻印を見つける。
素早くしゃがみ込むと刻印に手を当てた。