第1章 手紙
『総ちゃんへ
元気ですか?
風邪引いたり、ケガしていないかしら。
総ちゃんが江戸へ行って、しばらく経つのに、見送った日の事を昨日の事みたいに覚えてるわ。
遠ざかって行く総ちゃんの背中、毎日見てたらはずなのに、なんだか大きく見えて、びっくりしちゃった。
逢わない間に、また背伸びた?
今度逢うのが楽しみです。
隣のおばさんから蕨(ワラビ)の漬物をもらいました。総ちゃん、好きだったわよね。
お煎餅と一緒に入れたから、十四郎さん達と食べてね。
一緒に入れたタバスコたっぷりかけると美味しいわよ。
じゃあ元気でね。』
『総ちゃんへ
元気ですか?
十四郎さん達と仲良く出来てますか?
庭の橘が花を付けたわ。
とても綺麗で良い香りよ。
私、この香りがとても好きなの。
実がなるのはまだ先だけどね。
総ちゃん、橘の実を煮たのも好きだったわね。冬になって、実が採れたら送るわね。
覚えてるかしら?
総ちゃん、自分で実を採るって言って、一生懸命背伸びするんだけど、低い木にしか届かなくて、見かねた十四郎さんがひょいって採ったら、総ちゃんたら悔しがってたわね。
今は総ちゃんも背が伸びただろうから、背伸びしたらどこまで手が届くかしら。
想像したら楽しかったわ。
じゃあ、元気でね。』