第11章 ❄ 口喧嘩?、クッキー、最下位。
『ごめんね、』
少しして、息を切らして戻ってくる雪。
「雪、もし名前呼びづらいなら無理に『はい!これ、お礼にどうぞ。』
そう言って轟に手渡されたのは、彼女の 同い年にしては随分小さな両手に収まるほどの大きさの箱だった。
「……………。」
反射的に出された轟の片手のうえに、雪はぽん、とその箱を乗せる。
『これね、地元に売ってるクッキー。飛行機乗る前に買ってきたの。さくさくで美味しくて、私大好きなの!よかったらどうぞ。』
轟は目をぱちくりとさせて受け取った箱を見る。
上面に、【ミルククッキー⠀】と書かれている。そしてそれが、地域限定であることを理解できる、土地の名前も。
「お前、北海道から来たのか。」
『あ、そうなの。こっちは暖かくていいね、もう桜も咲き始めてるみたい。』
手元の箱から、にこにこしながら応える雪の顔に視線を戻した轟は、「悪いな。頂く。」と言い、背負っている鞄を下ろそうとする。
『あ、私入れてあげる。背負ってていいよ。』
「お、おい」
雪は轟の返事を待たずに彼の後ろへと回り込み、鞄の蓋を開け始める。
「…………。」
今度は轟が諦める番。大人しくしていることにした。
背中のカバンがチャックの開閉時にゆらゆらと揺れ、なんともこそばゆい気持ちになる。
『はい!お待たせ。このクッキーすぐに崩れちゃうから気をつけてね。』
そう言って雪は轟の後ろから女子寮の玄関前まで戻っていく。
『じゃあ、また明日ねー!ばいばーい!したっけー!』
「ああ。」
まだ出会ったばかりだと言うのに、大袈裟な挨拶をする雪を背に、轟は校門の方へ歩き始める。
少しだけ、帰ってから食べられるクッキーを楽しみにして。