第10章 ❄ 冗談じゃない!
ボールが落ちる。
ばっと計測器を持つ相澤を見る雪。
「………250.6m。」
『っ、は~~…』
生徒の列へと戻ってゆく。
その背中をちらりと見やる相澤。
(個性の使い方の工夫、コントロール能力は申し分ない。更に空間認識能力も完璧…)
列に戻った雪の周りに、何人かの生徒が駆け寄る。
「ケロケロ、零ちゃんの個性、とっても綺麗なのね。ちょっと心配してたけど、いい記録が出て良かったわ。」
そう言う蛙水が出した記録は160m。
だがその他の記録で雪は遠く及ばない。
『つゆちゃん、ありがとう。』
「おい雪、やるじゃねえか。」
瀬呂に このこの、と肘でつつかれる。
「めっちゃヤバかった、マジでヤバかった。」
金髪の上鳴(さっき名前を聞いた)は語彙力。褒めてくれるのは嬉しいが。
『えへへ…』
安心はできない。
自分はこれ以上大きな記録は出せないのだから。
雪は視線を緑谷へと向ける。
実技試験の日、上手く個性を使えなかったと話していた彼。彼もまだ、大きな記録を出していない。
青い顔で下を向いている様子を見るに、個性を上手く使えないのは現在も同様なのだろう。
緑谷には悪いが、少女は祈るしかないのだった。
(どうか、最下位になりませんように。)
しかし。どうしても、小さく震える彼を放っておけなくて。
『みどりや…!』
下を向いてブツブツと何か喋っていた緑谷が、ハッとして振り向く。
『リラックス、リラックスだよ!』
背中をパンパン、と叩いて笑顔を向ける。
「……………雪さん………うん、ありがとう。」
そして彼の番がくる。