第10章 ❄ 冗談じゃない!
(円の外にでなければ何をしてもいい…)
前の耳郎が投げ終え、円の中へ入っていく雪。
先程までとは違う 緊張した顔つきに、皆が ここで何かするのだろうと察する。
ここでいい記録を出せなければ、普通の記録だけで男子の緑谷よりもいい成績になることはできない。
『ふ~…』
目を瞑って 深呼吸を1つ。
(Plus Ultra !!)
じっと見守る一同。
ぱっ と目を開けた少女は。
「おい、どこ狙ってんだ?」
「……雪さん…?」
彼女は、およそ真上へ向かってボールを投げていた。
そして、高く投げたボールを見つめながら、両手のひらを開き、腕をピン、とボールの方へと伸ばす。
その先に現れたのは。
「綺麗。雪の結晶だ。」
誰かがつぶやく。
彼女の髪と同じく、きらりと日光に反射して光る雪の結晶。
雪は素早く伸ばしたままの片腕、片足を後ろへ引く。するとそれに合わせて雪の結晶も後退する。
そしてボールが落ちてくるのに合わせ…
『えい!!!』
力いっぱい、後ろへ下げた腕を元の位置へと戻す。
同時に雪の結晶も勢いをつけて前へと戻される。
「…………なるほどな。」
誰よりも早く、その意図を理解した相澤。
雪の結晶は、落ちてきたボールに見事命中した。
ボールはその衝撃で遠くへと飛んでゆく。
ボールに当たり砕け散った結晶が、不安そうに飛んでゆくボールを見つめる雪にきらきらと降り注ぐ。
多くの者は、飛んでゆくボールよりも 彼女の姿に目を奪われていたのだった。