第18章 ❄️️ 名前
傷が痛むのだろうか。それとも、クラスメイトを襲っていたことに酷く怒っているのだろうか。
どちらにせよ、入学してから約1ヶ月間。
いつも。
初雪に喜んでいるような声で笑っていて。
朝焼けに染まる前の空のような、透明な水色の目を輝かせていて。
そよ風に揺れるたんぽぽのように楽しそうで。
そんな、白く純粋な彼女の、このような表情は見たことがない。
眉間に皺を寄せ、鋭い眼光を目の前の男に向けて歯を食いしばる、こんな。こんな表情は。
髪やワンピースを染める赤が、彼女を変えているのか。
少し敵から離れて、先程よりも冷静さをとり戻した緑谷の頭の中に鳴っていた警報が、一つ増える。
「…雪…………さん……!」
緑谷がカラカラになった喉から、どうにか彼女の名を絞り出したとほぼ同時だった。
死柄木の喉に槍を突きつけたまま動かずに呼吸を整えていた雪が、小さく1歩、踏み出した。
それに合わせるように、槍も前進すると、ぐ、となすすべもなく死柄木は少し後退する。
敵の頭を生徒が抑えている。この状況は先程までよりも悪くはない
悪くは無いが…
いや、彼女はそんなことはしない。するような子ではない。
しかし彼女は、いつもの彼女なのか…?
目を薄桃色に光らせる彼女は…
このままアイツを殺してしまうのでは?
「っ雪さん!!!」
今にもその先の喉へ槍を突き刺そうとしている彼女の名を、はっきりと叫ぶ。
「零ちゃん!」
蛙水も緑谷の考えを察したように続けて名前を呼ぶ。
すると彼女は、ハッとしたように緑谷達の方へ振り向いた。
眉を先程までとは反対に八の字に下げ、ぱち、ぱちと2度、瞬きをした時…