第16章 ❄️ 風
自分の個性が嫌いだと言う。
かっこよくないと。ろくに役に立たないと。
「零のこせいがよかった。」
そう、つまらなさそうに、悲しそうに言う君は誰だったろう。
自分は何と返事をしただろう…
その時言ったこと、後悔、しているのだろうか。
ならば今度は。後悔しないように。
『私、しんそうのこともっと知りたい。教えて!』
「洗…脳。」
『えっ…』
雪の笑顔が消える。
それに気が付いた心操の鼓動は、すっと冷めるように速度をおとす。
いいんだ。普通。いつも通りさ。何を期待していたんだ。
「驚いたか?洗脳なんて、敵みたいな『凄い』
…
「はい?、!?」
『それ、凄い!!』
突然、ぐいっと心操に近づき大きな声をあげる雪。そして、
「ちょ、近…」
『しんそうがヒーローだったらいいな。』
先程と同じ、眩しい笑顔を向けて。
その瞬間、きゅっと胸を締め付けられるような感覚と、高揚感。呼吸が僅かに浅くなる。彼はその気だるげな、暗い瞳を揺らし、少しだけ潤ませ。
「……なんで?」
『心強いだろうから。』
「洗脳なんてヒーローっぽくないだろ。」
『そんなの使い方次第っしょ。ねえ、』
見て!
と、言いながら雪は1歩後退し、ぐん、と両腕を空へと伸ばす。つられて心操も彼女が腕を伸ばす先を見上げる。
そこに現れたのは、先程と同じ白い槍。いや、同じ形だが、大きい。3メートルはあるだろうか。地面と水平に浮いたそれは、ゆっくりと回りだす。段々とスピードが増してくると、2人の髪が揺れだし、地面に落ちている桜の花びらが舞い上がる。
『しんそう!』
空を見上げていた心操が、名前を呼ばれハッとして目の前の小さな少女を見ると、彼女は続ける。
『私、風を起こせるの!』
そう言った次の瞬間、彼女が笑顔を消し真剣な表情を作ったと同時、槍を中心に渦巻いていた風が、ゴォォっと言う音を立て一気に強まった。