第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「恨むのなら教官に俺を選んだエルヴィンを恨め」憎々しげに言う。「俺も心底恨んでいるが」
「ほかの班の兵士たちは、もっとこう、丁寧に指導してもらってるのに」
手を振って言い表すと、リヴァイの冷ややかな瞳が細まった。
「お前、自分が損してると思ってんじゃねぇだろうな。貧乏くじを引いたのは俺だ。こっちが教えてやっても、ちっとも成果が上がらねぇ。匙投げずにしぶしぶつき合ってやってるってのに、感謝の念はねぇのか」
(いちいち嫌味な男ね~。人を当たりクジが入ってないクジ箱みたいに言って。こんな人に自分の胸が高鳴っちゃったなんて悔しすぎるわ)
不満がの頬に出て膨れた。と、リヴァイの眼つきが据わる。
「上官に対してそんな面みせるとは、厚かましいにもほどがある」
足許に落ちている木製ナイフを蹴った。地面を滑ってきたナイフがの爪先で止まる。
リヴァイは冷たい響きで言う。
「拾え。その厚い頬が二度と膨らまないよう、躾けてやる」
の固く結ばれた唇は白味がかかっていった。屈んでナイフを拾い、強く握り直してリヴァイを見据える。
「ほう、生意気な眼だ」
後ろ足をするようにして下げたリヴァイが構えてみせた。
(馬鹿にして~! 目に物見せてやるんだから!)
は足を肩幅に開いて、胸許で両手を軽く構えた。リヴァイのトレードマークであるアスコットタイに目線を置いて、全体的に力を抜く。
の構えを見たリヴァイは、唇をぽかんとさせて一瞬だけ眼を瞠った。が、すぐさま真顔になる。
「気の毒だ。先制をくれてやる」
(自分からいってはダメ、だったっけ)
――相手に対して構えない。出方を待つ。抵抗する意志がないと思わせて隙を作らせる。
軽く構えたままは動かなかった。双眸を訝しそうに細めたリヴァイが首を僅かに傾けた。
「……見せかけか?」
「お先にどうぞ」
敵意なく答えると小さな舌打ちで返された。
じりっと砂がすれる音。片足をずらし、一瞬だけ態勢を沈ませたリヴァイの白いスカーフが捲れ上がってそよぐ。次の瞬間、スカーフが横に激しくはためいた。地面を蹴って、リヴァイがに向かってきた。