第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
リヴァイはおもむろに退いた。砂がついた膝を払って立ち上がりながらの、前髪が揺れる彼の顔は無表情だった。
手を突いて、はむくりと半身を起こした。僅かな膨らみしか感じない、ほぼ平らな胸をさする。服越しに感じた人肌の圧迫感が首を捻らせた。
(何で胸まで痛いの。ひょっとして触れた?)
リヴァイにちらりと視線を向ける。
(違うわよね。もしそうなら、いまごろ怒られてるわよね。俺を騙してたのか――って)
背を向けているリヴァイがどうして立ち竦んでいるのか、のほうからは見えなかった。肘を曲げているので、手でも見降ろしているような、そんな後ろ姿だった。やがて振り返る。
「いつまで座ってんだ。人を巻き添えにしやがって、クソっ」
腕を掴んで引き起こしてきたリヴァイは嫌そうに眼を眇めた。
「相変わらずの細腕だ。こんなんじゃ大事な女ができたときに守れないぞ。俺が作成したメニュー通り、しっかり筋トレしてんのかよ」
「あれを一日で全部は無理ですよ」
膝に力を入れては立ち上がった。女という言葉に内心ドキリと冷や汗が垂れたが。
「俺はあれの三倍をこなしてる。一日でできないわけがない」
腹筋、背筋、スクワット。それぞれ三百回を朝昼晩で三セット。無理である。
の後ろ姿は灰色の砂だらけだった。背中や尻についた汚れを払う。
「それにしても、いきなり突っ込んでくるなんて卑怯じゃないですか。おかげで何の準備もできませんでしたよ」
「卑怯?」
尖った顎を反らせ、リヴァイは平然とのたまう。
「お前にはまだ格闘術の『か』の字しか教えてないんだ。構えもクソもねぇんだから、攻撃に備える間を与えてやったところで時間の無駄使いだろ」
はちゃめちゃな持論だ。不服での唇が左に曲がる。
「屁理屈です……指導者とは思えません」
「体で覚えるのが一番早い。型から何まで口で説明するより、経験がものをいう」
「乱暴すぎやしませんか。これだけじゃなくて、ほかの訓練にしても言えることですけど」
舌打ちしたいような感じでリヴァイが吐き捨てた。
「男に優しくして俺に得があるか、ないな」
の声が思わずひっくり返る。
「男女で差別!? ボクに厳しいのは損得の問題ですか!?」