第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
(来た!)
二人の距離がさほどない短い時間のあいだに、は顔を引き攣らせて色々と考える。
彼の右手の武器に怖じ気づいていた。色のない表情と、鋭い三白眼も恐ろしい。完全に気が引けている状態で、まともに回避できるだろうか。
(む、無理)
抜き差しならない現状でできそうな技は、たったの一つしかなかった。
リヴァイとの距離が詰まる。身体を固くし、頭を突き出す勢いでは爪先を上げた。「えい!」要するにリヴァイの顎を狙って頭突きをしたのである。
が、眼を瞑ってしまったの正面には空間しかなかった。可怪しいと思って眼をぱちっと開ける。「あ、あれ!?」
勢いをつけたの身体は、踏鞴を踏みつつ前のめりに転んでいった。薄ら赤い空に尻を突き上げるような無様な態が仕上がった。
全身が痛かった。四つん這いになり、は後ろを仰ぎ見た。恨めしい思いで、
「なんで避けるんですか。ズルいじゃないですか」
「狡いもクソもあるか。何だってんだ、てめぇは」
片手を腰に添えて体重を傾けているリヴァイはなんだか呆れ顔だった。ロケットのようなの突っ込みの動作を見て、彼は素早く横へ避けたのだった。
「大層な構えをしやがるからなんだと思えば。何をしようとした」
ぼそっとは言う。「頭突き」
首を振りながらリヴァイが吐き捨てた。「馬鹿か」
軽く溜息をついてから顎をしゃくり、
「その構え、どこで覚えた。もともと知ってたってわけじゃないだろう」
地面にぺたんと座り込み、は歯切れ悪く白状した。
「訓練兵の中に格闘術が得意な子がいるんです。講義へ行くたびに、少しずつ教えてもらってました」
もうちょっと巧くやれると思っていたのに、お粗末な結果になってしまった。自分を情けなく思う。
「格闘術? そうは見えなかったが」
「護身術です」と言うと、「それで頭突きか」と独り言のようにリヴァイが言った。
じくじたる思いで唇を窄める。
「情けないです」
「何が情けない?」