第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
にないものがリヴァイにはあるのだろうか。
「リヴァイ兵士長にはあるんですか。守りたいもの」
「さあな」
息を吐くようにして、リヴァイはゆっくりと顔を逸らした。
きっとある。そうでなければ強くいられない。だって彼が自らそう教えてくれたのだから。
「前置きが長くなったが」と言ったリヴァイは不適な笑みをみせた。「やるか」
レプリカの小刀を構え、上体を斜めにして片足を後ろへ下げる。
の背筋に悪寒が走った。野獣のようにきらりと光る眼は嫌な予感しかさせない。
「日頃の鬱憤さらしに虐めようなんて思ってないですよね?」
痙攣を起こす頬で笑いかけた。まだ構えもしていないのにリヴァイが突っ込んでくる。
「喋っていられるとは余裕だな。もう始まってるんだが」
「ちょ、ちょっと待ってくださ」
は両の手のひらを突き出して訴えた。いきなり始まるとは思わず、頭は混乱中だ。
リヴァイは分かっているのだろうか。格闘術に関して、それを覚える必要性しかまだ教えていないことを。
訴えた手はリヴァイに邪魔だと払われた。ぐいっと手首を引かれ、彼の持つ小刀がの喉許を狙う。
と、引き寄せられたときに小石で片足が滑った。の身体は一気に傾いてしまい、もはや立て直せない。
「わ!」後ろに倒れそうになり、リヴァイの胸ぐらを咄嗟に掴む。
リヴァイが眼を剥いた。
「ふざけんな、離せ!」引っ張られるがままにリヴァイもバランスを崩す。
そうしてもつれ込むようにして、二人は地面に倒れ込んだ。胡椒のような小さな砂粒が煙となって包み込む。
痛みに顔を歪ませて、は短く呻いた。背中と胸に鈍痛が走った。
(ただ倒れただけなのに、すごい痛いんだけど)
痛みを逃すために両目をぎゅっと瞑っていた。正面に暗い影が落ちている感覚がし、薄く片目を開ける。
瞬間瞠目して、痛いはずの胸がひどく高鳴った。の持っていない深い群青色の瞳が近くにあった。仰向けに倒れたの両脇に、リヴァイが両手を突いていたのだ。
彼も驚愕の瞳を見開かせていた。瞬きもしないで互いに凝視していたのは、数秒だったろうか。