第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「分隊長に注がせてしまって申し訳ないです」
は酒を喉に流し込んだ。濃度の高いアルコールが熱さを伴って胃まで通過していく。
「いい飲みっぷりだ! 夜は長いんだからそうこなくっちゃね。寝ちゃったらもったいないよ」
嬉しそうに言うハンジを見てはぷっと吹き出した。
「何か可怪しい?」
「だってハンジさんが嬉しそうだから。そんなにボクに起きててほしいんですか?」
へらへらしているは酔っていた。微睡みが心地好い。
「だってほかに聞いてくれる人がいないからね。こっちも必死だ」
「新兵は食いつくしちゃったんですか?」
「もう近寄ってもくれないな……。もっと計画的に、じわじわと事を運ぶべきだったよ」
悲しそうにするハンジがには可笑しくみえた。酔いが過ぎて笑い上戸になってしまっているようだ。
「はさ、また誘ったら聞いてくれるよね?」
「今夜みたいに深夜を回ると困りますけど、中休みのときとかなら」
うっかりなことをは言った。ハンジがにやりと微笑を浮かべたことに気づけなかった。無意識に確約してしまったことを近いうちに後悔するだろう。彼女の話につき合ってくれる人間は、もうしかいないからだ。
不揃いな本棚をバックに腰掛けるハンジは語った。
「でね、巨人には空腹感がないんだ。なのに人間を捕食するんだよ。この事については何を疑問に思う?」
垂れてくる瞼を堪えつつ、は考えた。食べることに理由がないのなら何か意味があるのだろうと思った。
「増え過ぎた人間を減らしたいんじゃないでしょうか」
「壁内は限られた空間だ。この百年で減少はしていても、際立って増えてはいないと思う」
「発生の原因です。百年前を振り返ります」
「そうきたか。続けて」
低い丸テーブルに肘を突き、ハンジは顎で両手を組んで身を乗り出す。
「人類に怒った神様が罰を与えた、って説はどうでしょうか」
「神様が私たちに怒った? それは何で?」
「食物連鎖の頂点は、いままで人間が君臨していましたよね。自然の伐採や動植物の遺伝子操作をしたり、生態系を壊して好き勝手してきました。そんな愚かな人間に、とうとう天敵が現れたって考えられないでしょうか」