第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
エルヴィンを信頼してはいる。が、たまに感じる人間味の乏しさを仮借できない己がいた。上に立つ者が揺らいではいけないことは分かっているのだけれど。
横髪をなびかせて、リヴァイはそっけなく背中を見せた。大股で退室しようとした。
「リヴァイ」
固めの口調だが、どこか気遣うような声が呼んだ。
扉口で振り返らずに、リヴァイはドアノブを掴む。
「お前の信念は理解してる。俺だって犠牲を恐れているわけじゃない。だがふと悔しくてたまらなくなるときがある。そんなときは、お前のあけすけな言葉に腹立つときもあるってことだ」
なるべく冷静に言い置いて、静かに扉を閉めたのだった。
10
翌日、リヴァイは玄関でがやってくるのを待っていた。遅刻は初日だけで、毎日つらそうながらも時間厳守で訓練に励んでいたというのに、今朝はいつまで経っても来ない。
遅い遅い、と爪先で廊下を何回鳴らしたか忘れた。寄りかかっていた壁から背を離して、叩き起こしにの部屋へと逆戻りする。
(手間ばかりかけさせやがって。自覚のかけらもねぇ奴が)
むしゃくしゃが足音に表れていた。
の部屋の前でリヴァイは肩を怒らせた。扉を足で蹴ろうとして思い留まる。両隣の扉よりも彼の扉は若干傷だらけで塗装が剥げていた。
(……俺のせいじゃねぇよな)
壊れてしまったら修理代に一体いくらかかるか。修繕費用のことでエルヴィンにまたぐちぐち言われるのは面倒だ。もし壊れたとしても、の少ない給与から差し引けばいいことだが。
足ではなく腕で殴りつけるようにして荒いノックをしたのは、一応気にしたからであった。
「また寝坊か! 上官を待たせて、ぐうすか寝てんじゃねぇ!」
やがて扉がのろのろと開いた。一瞬、ゾンビと見紛う。のやつれた顔を見て、リヴァイの白目の分量は増えた。
「ひでぇ面だな、なんだそりゃ」
「実は全然寝てないんです」
弱々しく言ったの目許には青黒い隈があった。立っているのもやっとのようで、扉の縁を支える手に体重を乗せている状態だった。