第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
ローテーブルからティーポットを取り、立ったままでカップに注ぐ。ダージリンが香り立つ。
「ほんとにどういうつもりだ、エルヴィン。一目見たときから見抜いてたろ、兵士に向いていないことなど」
「だから言ったろう。断れなかったんだ」
と言うエルヴィンの顔つきはまだ穏やかだった。
「あんなのを壁外調査に出してみろ、ソッコーで死ぬ」
「だからお前に指導を頼んだだろう」
のらりくらりとかわされている気がした。言いたいことは分かっているだろうに。能無しと嗅ぎ取っていて、どうして兵団へ迎え入れたのか。死者を増やすだけだろう。
ふつふつと苛立ってきて、書斎机にかちゃんと音を立ててティーカップを置いた。
「誰が指導しても同じだ、それはお前も分かってるだろ。訓練量の問題じゃない。そもそもが論外だ」
「この先技術が身につかないとしても、まったくの役立たずにはならないさ」
入れた紅茶をこくりと含んだエルヴィンに低く問う。
「どういう意味だ。俺には役に立つとは思えない」
「壁にはなる」
エルヴィンがさらりと放った一言に、リヴァイの頭は血が昇った。
「本気で言ってんのか、てめぇ!」
失った自分の班を思い出し、拳で書斎机を鋭く叩いた。積み重なった紙束がはらはらと舞う。
慌てることなく、エルヴィンは崩れそうな書類の山を手で押さえつけた。蒼い眼差しが聡明になる。
「言葉はよいものではないが本気だ。本質を見失うな、リヴァイ。我々は何のために活動している? 巨人に奪われた街を取り戻す、巨人の謎を解き明かし自由を手にする、そうだな?」
叩きつけた拳を震わせ、奥歯を噛み締めながらリヴァイは睨み続けた。
「犠牲ありきの調査兵団だ。その犠牲が決して無駄でないことも分かっているだろう? みな承服のうえで入団してきた。お前もそうだし、お前の育てた部下もそうだ」
「言い方ってもんがあるだろうが」
喉から絞り出した責めに、エルヴィンは重い溜息をついてみせた。
「お前の無念は分かる。俺も仲間を失ってきた。巨人が憎くてたまらない。だが一歩ずつ先へ進むためには――道を繋げるためには、犠牲という屍の上を歩いていくほかないんだ」