第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
いい加減聞き飽きてきて、は「はぁ」とただ返すのみであった。巨人トークをさせるとハンジの口が減らない。そんな彼女と同席するのがみんな嫌で避けられていたのだろう。だって落ち着いて食事もできない。
まともに相槌すらしなくても彼女は一人で喋った。観葉植物になったフリでやっと完食し、ハンジの声で耳がじんじんしてきたころ彼女は言った。
「まだ話足りないな。もまだ聞き足りないでしょ?」
「巨人の話なら、お腹いっぱいになりました。一年は持ちます」
「謙虚だな。もっと知りたい聞きたい、って言ってくれて構わないんだよ。私の階級なんて気にしなくていいんだから」
謙虚でなく本心だったのだがハンジには通じなかった。まだここで雑談しようというのか。身体がくたくたなのでは早く自室に戻って休みたかった。
席を立って盆を持ち、低姿勢で言う。
「また今度お話を聞かせ」
途中でがしっと腕を掴まれた。妖しげな笑みを纏うハンジの眼鏡はランプの明かりが揺れてみえる。
「だから遠慮しなくていいって。ここじゃ落ち着いて話もできないから、私の部屋へ行こうか」
「いや、でも……お風呂がまだだし、もうすぐ就寝時間だし、第一女性の部屋にボクが入るっていうのも抵抗あるっていうか」
何とかしてハンジから逃げられないだろうかと、断る理由を言い連ねてみた。が、彼女はそんなことで引き下がらない。
食卓を拭きにきた食堂のおばさんにハンジは二人の盆を滑らせた。
「ごちそうさま、美味しかったよ。悪いけど片付けておいてくれるかな。これから楽しい楽しい夜更かしが待ってるから急いでるんだ」
「夜更かし!?」
思わず声が滑稽に上ずった。朝まで喋り倒す気か。
抵抗の暇さえなく、ハンジになかば引きづられるようにしては食堂をあとにした。
※ ※ ※
そのころリヴァイはエルヴィンを訪ねていた。団長室にある革張りのソファに我が物顔で座り、食後の紅茶を味わっているところだ。
「俺の部屋は、いつからお前がくつろぐ空間になったんだ?」
班長らが提出した報告書に確認のサインをしているエルヴィンは、顔を上げずに言った。びしっとセットされた前髪は下に垂れることなく、彼の表情が窺える。迷惑そうではなく目許は穏やかだった。