第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
は身を丸くした。リヴァイがすごい人なのだということは、この数日で分かってきた。そんな人が自分を見てくれていること自体、特別なことなのである。気に入らないことは胸の内で罵っていればよいわけで、他人に喋ってしまうなんて迂闊だった。
「厳しくされるのも分かってはいるんです。でも、毎日身体がつらいとか痛いとか、誰かに零したいときもあって……それでつい」
「分かってるよ。リヴァイの悪口じゃない、訓練の愚痴でしょ。誰だってある、私にだってある」
と言ったあと、ハンジは悪戯な顔つきで覗き込んできた。
「でも本音は嫌い――そうでしょ?」
ズバリ言い当てられてしまい、は苦笑いで返すのだった。
雑談しながら食事は進んだ。やがてが気づいたときには遅かった。ハンジがどうして食卓に一人きりだったのかということに。
「捕獲した巨人にね、私は名前をつけるんだ」
そう言って、生態実験のために捕獲した巨人の歴代の名前を列挙していく。
「そうすることで、つらい実験も彼らと一緒に乗り越えられる」
「つらいんですか? その実験」
聞かなければよかったとが後悔するのは、もう少しあとだ。好奇心を持ってくれたと思ったのかハンジに火がつく。
「そりゃつらいよ。うなじ以外にほかに弱点がないか槍で刺して探すんだけど」感情的に喋りながらパンを噛みちぎった。「痛そうで可哀想で、涙なくして実験はできない」
「ハンジさんの資料には彼らに痛覚はないって書いてありましたけど、痛がるんですか?」
「読んでくれたの、私の記録!」
興奮気味のハンジが身体をこちらに向けた。彼女が咀嚼しているパンカスがの顔面に飛ぶ。
ハンカチで拭き取り、はたじたじと返答した。
「まだ全部じゃないですけど。なにしろ量が多いので」
「嬉しいなぁ! そっかそっか、巨人に興味を持ってくれたか!」
それからというもの、に口を挟ませることなくハンジは熱く語り続けた。
「の疑問だけど、巨人に痛覚はあるのか!? これは確かじゃないんだけど基本的にはないんじゃないかと思ってる。でも中にはいるんだよ、槍で刺すと悲鳴をあげる子がね。この違いを私は探求したいんだ!」