第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「どこで食べようか迷ってたんでしょ? 私も一人で寂しかったんだ。一緒に食べよ」
「ボクも知ってる方と食べたいなって思ってたんです。嬉しいです、誘ってくれて」
盆を置いては腰掛けた。八人座れる食卓に、なぜかハンジは一人だった。
「訓練の調子はどう?」
「いまだに慣れません。あちこち筋肉痛で、そろそろ限界がきそうです」
腰痛が慢性化しそうな腰をさすり、は眉を下げた。
「容赦なさそうだからな、リヴァイは。やっぱ彼の指導って厳しい?」
「ボクがダメダメだからなのかもしれないですけど……かなり」
にんじんにフォークを刺したところでハンジが奥歯を見せて笑った。
「私から見ても指導者向きじゃないからね、彼は。実力は文句なしなんだけど、向き不向きってのがあるからさ」
「とにかく発言がきつくて、それだけで身が削られるっていうか」
はパンをぱくっと食べた。そろそろ白いお米が恋しい。
「ボクの教官がハンジさんだったらよかったのに」
「私が優しいとは限らないよ。リヴァイよりも、もーっと厳しかったりして」
「あの人よりも怖い人はいないと思います」
顎を反らしてハンジは呵々する。
「すっかり苦手になっちゃったか。指導者ってのも損な役だね」
言い回しがリヴァイを庇っていた。ハンジに上目しながらはフォークを口に運ぶ。
「うるさく言うのも厳しくなるのも、一生懸命だからなんじゃないのかな。ダメダメなのにつき合ってくれてるんでしょ?」
彼女はリヴァイと親しそうだった。がリヴァイのことを悪くいうことで嫌な奴に思われただろうか。言われて反省した。目線が落ちて、スープ皿にフォークがぽちゃんと沈む。
「悪口に聞こえちゃいましたか。そんなつもりじゃなかったんですけど」
「んー、そんなことないよ。よくある愚痴でしょ」
眼鏡越しにハンジは眼差しを和らげた。
「リヴァイ兵士長は壁外の怖さをボクに感じ取らせたいみたいなんです。それってたぶん彼が誠意を持って指導してくれてるからなんだろうな、って分かってはいるんです。まだ理解しきれてないけど」
「実際に体験してみないとなかなかね。巨人を見たことのない新兵なんかは、みたいにのほほんとしてるもんだ」