第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
木の枝から手を離し、リヴァイは下のほうに向かって立体機動に移った。「次はガスの噴出量を加減しろ」
「気をつけます」
あれから何度となく立体機動の訓練を繰り返した。が、残念ながらは出来のよい生徒ではなかった。自分でも思うが才能があるとも思えなかった。
リヴァイはひどく手を焼いたのだろう。途中何回もわざとらしい溜息が聞こえ、そのたびは項垂れたのだった。
彼らのように特別に訓練を受けたわけでもなく、は至って平凡な会社員だった。一日やそこらで難しい技術を会得できるわけがないのに、しかしリヴァイは仰々しく息をついた。才能がないことをよりも先に見て取っていたのだろうか。
でも――
(訓練を前にして逃げないだけでも褒めてほしいわ)
茜色に染まる雲の下。腰に手を当てて、リヴァイが盛大に溜息をついてみせた。
「散々な一日だった」
それはこっちの台詞だ、とは思う。身体中の節々が痛くてたまらず、腿をさする。
「ふざけて訓練受けてたんじゃねぇだろうな、お前」
「ふざけてなんてないです」
一応真面目にやった。しかしどれも経験がない上に苦手分野ばかりなので、これが精一杯だった。逃げずに頑張ったとは思うのにリヴァイは怖い顔をする。癪だったは唇を尖らせた。
「あ? なんだ、その顔つきは」
苛立った口調でリヴァイは言う。
「これはお遊びじゃねぇんだぞ。それとも貴族様の暇つぶしか」
「ち、違います。人類の……役に立ちたくてボクは」
口したのは、調査兵団へ入団するにあたっての表向きの志望理由であった。すべからくにそのような志はない。話を聞いただけでは、どんなに脅されてもこの世界の危機感は抱かないし、どこか他人事だからだった。
リヴァイは冷ややかに言う。
「そんなふうには、とてもじゃないが見えねぇな」
は俯いた。鋭い瞳で心の内を表情から読まれそうだと思った。
「それにしたってお前、ありえねぇだろ」低く吐き捨ててリヴァイは踵を返した。「素人以下だ」
リヴァイは兵舎の方角へ歩いていった。空を見上げると、もう夕暮れだった。今日の訓練はここまでらしい。
「素人で結構っ。だって素人だもんっ」