第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「中段つったろうが。なに上段に差してんだ、馬鹿」腕を組むリヴァイが吐き捨てた。「アンカーを一度外してやり直しだ」
言ったそばで、の立体機動装置がガスを噴く。
「――っておい!」
焦り混じりの怒号が耳に掠ったが、の身体は巻き取られるワイヤーとガスの推進力で上空に引っ張られていった。
「外し方が分からな」あわあわと口を開くと、向かい風で酸素が薄まり、たちまち息ができなくなった。刺すように通り過ぎていく風が顔に痛くて眼を開けていられない。ぎゅっと瞑る寸前にかろうじて見えたのは、物凄いスピードで近づいてくる太い木だった。
(ぶつかる!)
は衝撃を覚悟して身を固める。が、身体全体に走った衝撃は予想していたものではなかった。遥かに弱く温かで、激痛もなかった。
固く閉じていた眼を薄ら開けた。片手で木の枝にぶら下がっているリヴァイがを抱えていた。木と正面衝突寸前に彼があいだに入ってくれたのだ。早業に驚く。
「やり直せと言ったのに勝手に行動すんな。そもそも立体機動中に眼を瞑るんじゃない、木と同化したいのか」
「風が強くて、眼を開けているのがつらくなってしまって」
木とぶつかりそうになった怖さは、とうに吹き飛んでいた。腰許に絡まる腕が逞し過ぎて、実をいうとはいまひどく動揺していた。
「素人のくせにガスを噴かせ過ぎたからだ。いまのお前に、あれじゃコントロールできないだろ」
「もう少しガスを弱めていたら、眼を開けていられたでしょうか」
どうでもいいような馬鹿な質問をしていると思った。まごついているからだろうか。リヴァイの胸許付近で落ち着かないの両手は、彼の両肩に添えていいものかどうか行き場を失う。
「それも慣れだが」リヴァイは小さく溜息をついた。「どうしてもつらいなら、ハンジみたいにゴーグルをつけるとか回避策はある」
「あ、明日からそうしようと思います。またこんなことイヤだし」
早く地上に着きたいとは思っていた。距離が近いせいで恥ずかしくなってきており、耳が火照り出している。
「し、仕切り直して続きをしましょう!」熱心な生徒に見えたろうか。ただ離れたい一心だったが。