第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
腰許の装置から白い蒸気を纏うガスが噴き出ると、リヴァイの外套が激しくたなびいてゆく。それから瞬く間に浮上していった。
ワイヤーを巻き取って空中浮遊を維持しつつ、リヴァイはアンカーをよその木に差し替える。ときおり反転しながら幾度と繰り返して、の頭上を旋回し続けていた。――枝に足を着けることなく。
小さな空で自由に舞うさまは、
「緑の鳥」
めじろや鶯のようだった。
見とれていたの目の前にリヴァイが片足で着地してきた。ぼうと唇を薄く開けているに言う。
「これが立体機動だ。人類が発明した、対巨人戦にもっとも適した戦法。己より巨大で強大な敵に立ち向かうための武器だ」
「飛びながら空中で闘うんですか」
「巨人の弱点はうなじにある。十五メートルもある豚野郎に地上戦では勝ち目はない。蟻のように踏みつぶされるだけだ」
にはまだ深刻さが分からなかった。ただリヴァイの眼光が真剣だったということだけは見て取れた。奥に秘めている覚悟が、と彼とでは全然違うものだということも判じた。
リヴァイの瞳がワイヤーのように突き刺さってくる。
「噛みつかれて、はたき落とされて、捻り潰されて――そうやって死ぬのは嫌だろう。だから俺が教えてやってる」
何を想像すれば彼が伝えようとしている恐ろしさが身にしみるのか。バイオテクノロジーで復活させた古代の恐竜を見せ物に、テーマパークを開いた映画でも思い浮かべればぞっとするだろうか。所詮空想の世界ではの身を竦ませることは無理だったが。
「黙りっぱなしだが、俺の言っていることは理解できたのか」
「何となく」
曖昧に頷いたの心の内など見透かされていただろうけれど、リヴァイはもうその話を切り上げた。
トリガーの操作を教えてもらい、今度はが立体機動をすることになった。リヴァイの指導が飛ぶ。
「いきなり高く上昇しようとするな。落ちても軽傷で済むよう、木の中段あたりを狙ってアンカーを打て」
「はい」
グリップを握る親指で操作すると、腰許から時間差で二本のワイヤーが飛び出した。軽い反動には少し狼狽えて身体を揺らす。
「わ! 出た!」
標的を考えずに射出したアンカーは近場の木に突き刺さった。