第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
気を取り直した彼は、何事もなかったかのように手早く脚のベルトを装着していった。立体機動をこの眼で見たことがないに、どんなものか見せてくれるという。
森の中を移動していく。昼中だというのに、二十メートルはある樹々の葉で太陽の光が遮られており暗かった。枝の隙間から漏れてくる日光はシャワーのようだ。
「木製の大きな人型のものは何ですか?」
木の影に隠すように配置されている巨大な模型を見て、は指差した。
「巨人を模した仕掛けだ。まだあれで訓練するには早いが、どういうものか見せてやる」
ここで待ってろ、と指示したリヴァイが木の影にある模型へと歩いていった。彼の姿が消えてややしてから、ぎしぎしと鈍重な音が森の中に響いてきた。
頭上で覆い繁る葉から、巨大な人型の模型が顔を出した。その大きさに、巨人を見たことのないは怖がるどころか感心した。
「偽物だとはいえ迫力ありますね」
リヴァイが戻ってきた。また影にゆっくりと消えていく仕掛けを尻目にに言う。
「本物はもっとだ。いまお前が感じた迫力とは、おそらくまったく別の心象になるだろう」
「すごいとか、大きさに衝撃を感じたりとかですか」
「すごいと思うにも色々ある。驚愕や観念や恐怖――とかな」
並べ立てられた言葉が全部マイナスなことばかりなので、の口端がぴくぴくと攣った。
「全部あまり良い意味じゃなさそうですね」
「それだけお前は暢気ってことだ。そろそろ真面目にやれ。俺の堪忍袋の緒が切れないうちな」
外套を翻し、リヴァイは下草を踏み鳴らして歩き出した。
何だか怒らせてしまったようだった。立体機動訓練を前にして、まだ安直でいるに苛々したのだろうか。それはこの訓練が、壁外で生き残る上でもっとも重要なものだからなのだろうけれど。
「いまから見せてやる」
適度な場所で立ち止まったリヴァイが、脇に収納されているトリガーを手にしてそう言った。グリップを握る指先が細かく動いていると思ったら、両の腰許から二本のワイヤーが射出した。
ワイヤーの先に突いている尖ったアンカーが木に突き刺さる。
「トリガーを操作して、ガスを噴出しつつワイヤーを巻き取る」