第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
リヴァイの手許を見降ろしながらとりあえず頷いたが、繁雑で覚えられそうになかった。彼の指先が胸許のベルトを触れて、拙いことにやっとは気づく。
「待って!」
半身を捻っては胸許を庇う。頬が赤くなる。
「なんなんだ、急に」
「ここは自分で締めます!」
リヴァイはひどく怪訝そうにした。
「お前の態度はいちいち気持ち悪いな。下心もねぇのに、ひどく心外な思いをさせてくる」
「すみません、深い意味はないんです。少しは自分でやらないと覚えられないと思っただけで」
言い訳しながらは金具にベルトを通していった。着せ替え人形になったつもりでリヴァイに任せていたから焦った。間違って胸にでも触れて、女だと悟られていたらと思うと冷や汗ものである。
「弛ませずにしっかり締めろ。命に関わる」
「はい。しっかり締めました」
ぎゅっと締めたことで胸が強調されていないか気になった。意味なくシャツを摘んで身体から浮かせてみたりした。早くジャケットを着て隠したかった。
リヴァイは膝を突いて、腰許から長く垂れているベルトを二本取った。
「あとはこのベルトを両腿でそれぞれ締める。弛めず締めろとさきほど言ったが、金具が傷んでいないかも、その際ちゃんと見ておけよ。留め具が割れてベルトがたわみ、空中から落ちて大怪我した奴がいるからな」
どの高さから落下したんだか知らないが怖い話だ。
「脅かさないでくださいよ」
「これは俺の勘だが、お前は脅すくらいで丁度いい」
イコールそれは駄目な奴だと言われているような気がした。会社ではそこそこ頑張っていただが職種が変わるとこうもせんないものなのか。適性というものの大切さを実感していた。
ベルトの調節での腰に触れたリヴァイの動きが、ふと不自然に止まった。細い眉根を寄せ、群青の瞳を狐疑の色にして見上げてくる。
「どうかしましたか?」
「腰が――お前」
「腰が?」
きょとんと首をかしげたを見て、リヴァイは目線を落とした。疲れ目がつらいとでもいうように、きゅっと瞳を閉じてかぶりを振る。
「いや、なんでもない」