第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
まったく同じセットが彼のそばに置かれていた。楕円形の機械もある。
「これがお前の立体機動装置だ。個人で管理するものだから大事に使え」
「その機械のようなものはどこについてるんですか」
何も分からないを面倒臭がるかと思われたリヴァイだが、普通に教えてくれるようだ。腰の後ろを覆っている外套を彼が後ろ手でたぐり寄せると、同じ楕円形の機械が現れた。
「これが装置だ。接続されたトリガーを操作すると、ここからガスが噴射される。ワイヤーとガスの推進力を利用して空を飛ぶ」
「空を飛ぶ……」
そんな小さな機械から排出されるガスで人間が飛べるものだろうか。半信半疑でいると、深い色合いをしているリヴァイの瞳が見据えてきた。
「まだ見たことないか、人間が飛ぶところを」
森のほうへ首を伸ばし、
「訓練してる奴が見当たらないな。奥のほうへ行っちまってるか」
「だからですか?」
「なにがだ」ベルトを解き終わったリヴァイは立ち上がった。
「だから紋章が自由の翼なんですか?」
「なぜそう思った」
白い鳥が丁度森から飛んでいくさまを見ては言う。
「飛ぶっていう表現がもし鳥のようなら、自由に大空を舞うことをさしているのかな、って思ったんですけど」
少し瞳を伏せ、リヴァイはややして言った。
「違うようで違わない」
え? と眼を瞬かせたを見て、リヴァイは澄んだ瞳を上げた。
「そのうち分かる。逆に俺が分かったことは、お前が本当に温室育ちのぼんぼんだってことだな」
この世界について無知ではあるが、どこかのお嬢様みたいに甘やかされて生きてきたわけでもない。そんなふうに言われると馬鹿にされたみたいでムッときてしまう。
リヴァイが背後に回った。
「ベルトをつけるぞ」
リュックを背負うように背当て付きのベルトを頭から被った。後ろから回されたリヴァイの手が腰ベルトを締める。顔を横に逸らすと、眼を伏せ気味のリヴァイの横顔が見えた。やはり端正な顔をしているとは思った。
リヴァイが正面に回ってきた。
「次は胸許のベルトを締める。手順を覚えておけ、明日からは自分で装着するんだ」
「分かりました」