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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第1章 :青嵐と不安と潮騒(彼女の世界と彼の世界)


「綺麗に撮れた?」
「うん。も記念に撮りなよ。海を見たいって言ったの、あんたでしょ」

「そうね、写真に残しておこうかな」
 バッグの中を漁って彼女はスマートフォンを探す。友人が髪を掻き上げた。
「東京から鎌倉まで一時間ちょっとか。近いよね」
「古都なのに、京都や奈良にはない海も楽しめて、いい所よね」
「ここも癒されるけど、あとで街中のほうも行ってみようよ。あっちも風情があって、日頃のストレスを癒してくれそうじゃない?」

 水平線上に浮かぶ白いヨットと一緒にフレームに海を納めた彼女は、スマートフォンをバッグに戻した。
「最近残業続きって言ってたね。いま携わってるプロジェクト、忙しいの?」
「別にいまのプロジェクトが、ってわけじゃないけどね。その前のやつがお蔵入りになっちゃったから、挽回しようって必死なだけ」
「研究部門は大変ね」

 友人はからっと笑った。
「解析部だっていま忙しいでしょ? うちだけが大変なわけじゃないよ」
「香織がどんどん開発してくれちゃってるからね~。おかげで収集されたデータの山に埋まっちゃいそうよ」
 友人は肘で彼女を突く。「私だけじゃないし~」

 そうそう、と友人は笑顔を向けた。
「サンプルの解析データありがとね。あれ、ヒントになった」
「解析データ? いつの話?」
「やだ、つい昨日のことだよ。丁度、研究に行き詰まってやさぐれてたのよね。でも喫煙ルームから戻ってきたら、私のデスクにからとっておきのプレゼントでしょ。それでパッてひらいめいちゃったし」

「それ私じゃないと思うわ。ほかの誰かじゃない?」
「しらけちゃって。あんたの癖字を見間違う私だとでも? 人助けを隠したかったら直筆のメモなんか残さないことね」

 堤防からぴょんと降りて、友人は彼女を振り返った。
「ねぇ、足だけでも海に入ってみない? 今日夏日みたいに暑いし、きっと気持ちいいと思うんだよね」
 上着と靴を脱ぎ捨てた友人は、返事をしない彼女を置き去りにして波打ち際に走っていった。海の手前で立ち止まり、膝丈のスカートの裾を結びながら再度振り向く。
「早くおいでよ~!」

「うん、いま行く」
 こんな小声でここから返事をしても、きっと聞こえなかったろうと思う。曖昧に笑ってみせたのは、実はさきほどから青い海に対して漠然とした怖さが湧いているからだった。
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