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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第1章 :青嵐と不安と潮騒(彼女の世界と彼の世界)


 彼の班は彼一人を残して全滅した。悲観しているかどうかは、彼の無表情から垣間見ることは難しかった。
 この世界では、こんなことは日常茶飯事でありきたり。仲間を失うことも当たり前。だから慣れてしまったのかもしれないとも取れる。ただ手に持つ片腕が、怒りの震えを伝ってゆらゆらと揺れるのみだった。

「リヴァイ!」
 声をかけられて彼は振り返った。馬で駆けてきた男は手綱を引いて傍らについた。
 金髪の髪を横分けにした男は、威厳ある顔で言った。
「作戦事項通り、補給拠点を確保することができた。この地点をよく死守してくれた」
「そうか。ならよかった」

 金髪の男は視線を下げて、彼がぶら下げる腕を見る。
「お前の部下のものか」
「俺の班は全滅した。こいつらが踏ん張ってくれたからだ、ここを守れたのは」
「そうだな。彼らが壁となってくれたおかげだ」

 壁。彼と同じように、悲観な表情など見せずに金髪の男はそう言った。

 目的を達するためには犠牲はつきものである。そう割り切ってはいるものの、いままで見送ってきた多くの屍が報われる日は、果たして訪れるのであろうか。
 ――と、ときおり彼は虚しく思うのであった。

 ※ ※ ※

 この世界は平和である。

 五月の爽やかな風が吹く。どこもかしこも渋滞や混雑に巻き込まれるゴールデンウィークは、絶好の行楽日和であった。

「わ~、いい眺めね」
 陽射し避けに、手を額に添えた彼女はという。目の前には、太陽を浴びてきらきらと揺らめく青い海があった。
「ほんとね~。毎日のハードワークから解放された――って感じ」
 うーん、と気持ちよさそうに背伸びをした女は、彼女の会社の同僚だった。

 二人は鎌倉へ旅行にきていた。朝早く家を出て、午前中には予約していたホテルに着いた。荷物だけを預けて観光に繰り出している最中だった。
 湘南の海、由比ケ浜海岸。砂浜沿いの堤防で、二人はのんびりと腰掛けている。
「写真を撮っとこうっと」
 友人がスマートフォンをバッグから出し、眼の高さで掲げた。カシャっとシャッターの音が鳴る。
 と、犬を散歩中の老人が視界に入った。

「あ~ん、おじさんが入っちゃった。撮り直し!」
 残念そうに言って、もう一度掲げた。 
「よし! 今度はばっちりだ!」
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