第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
身体全体で杭を揺さぶった。と、背後から腰に腕が絡まる。「え」
リヴァイに持ち上げられて、は絶壁まで運ばれた。
「ちょっと、やだ、うそ、冗談でしょ、待って!」
ばたばたさせる足許には地表がない。
「楽しんでこい」
冷酷な口調と同時に腰に回されていた腕が、ぱっとなくなった。呑み込んだ悲鳴。瞬間とてつもない重力がかかっては真下に落ちていった。引き上げてもらったあと、我慢できずに人前で嘔吐した。
まだ胃がぐるぐるしていて、木の根元では踞った。
「う~」
「きたねぇな。このくらいで吐いてたら立体機動なんてできねぇぞ」
不浄な眼つきでリヴァイは腕で鼻を覆う。背中をさすってもくれない。
「こういう訓練があるって知ってたら、朝ご飯なんて食べなかったのに」
「弱いって知ってたら俺も食わせなかったさ。ったく、しばらくスクランブルエッグは食えそうにねぇ」
吐いているところを男に見られるなど屈辱でたまらなかった。せめてもの救いは相手が嫌いな人でよかったということだった。
08
「ハードな午前中だった」
体力も精神も削られて、は食堂の食卓に横顔をつけた。正面には背凭れに身を預けているリヴァイがいた。
食堂で雇われている中年の女が二つの盆を持ってきた。それぞれの前に置く。
「たんと食べて、午後の訓練も頑張るんだよ」
のそりと身体を起こして昼食の献立を眺めた。とリヴァイの萎えた声が揃う。
「よりによって、スクランブルエッグ」
ぐちゃぐちゃ具合がさっきを呼び起こさせた。顔を逸らしては咄嗟に口許を覆う。
一つ椅子を飛ばした隣にいる兵士に、スクランブルエッグが乗った皿をリヴァイは滑らせた。
「やる」
「いいんですか」
体型的におかわりをしないと足りなさそうな兵士は喜びを隠せないようだ。
「ああ。食欲がないんでな」
「ありがとうございます。頂きます」
肘を置き、フォークを持つ手でリヴァイは額を支えた。実際運動したのはなのに彼のほうが疲れているように見えた。
「食わないのか。さっき全部出しちまったんだ、午後もたないぞ」
「午後の訓練……食べても支障ないでしょうか」
リヴァイは隈の濃い双眸を上げた。
「あ~、やっぱり食わないほうがいいかもしれん」