第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
立て直せないほど身体が横に傾いていった。(もうだめだ、落ちる!)青ざめたとき、すぐそばにリヴァイが立っているのが眼に入った。一緒に追ってくれていたようだ。
(怪我をするよりマシ!)
は思い切って平均台を蹴った。リヴァイに向かって飛ぶと、彼ははっとしたような顔で両手を広げた。リヴァイの首許に巻きつくようにしては抱きついた。
がっちりとした骨格。背丈は同じでも筋肉の付き方がと全然違う。リヴァイを参考にしてハンジが選んだジャケットが大きかったはずである。
耳許からふわりと石鹸の香りがした。
(男のくせしていい匂いがする。なんか悔しい)
久しぶりに触れ合う男の感覚に若干ときめきつつ、そんなことを思っていたら地べたに尻もちをついた。
「いったぁい!」
を引き剥がしたリヴァイは感触を嫌がるように肩を払う。
「男と抱きつく趣味はない、気色悪い」
尻をさすり、は唇を尖らせた。
(なによ、自分だって腕を広げてたじゃない、反射的だったんだろうけど。嫌だったなら避ければよかったのよ)
そうだったなら足首を捻るどころでは済まなかったかもしれないが。
「場所を移動する」痛がるを無視してリヴァイは行ってしまう。
(血も涙もないわ)
頬を膨らませて立ち上がり、おおいに不満ではあるが、あとに続いたのだった。
「無理です!」
「無理じゃない、やるんだ」
このやり取り、これで何回目か分からない。
の足許すれすれは真下に断崖絶壁だった。片足が前にズレると、いくつかの小石がからからと楽しそうな音を立てて絶壁を滑り落ちていった。
目下に小さく見える川へと小石は落ちたはずだが、水が跳ねる動作を視認できるどころか音さえしなかった。本部の敷地内に川が流れていたなんて知らなかったが。
頭がくらくらしそうな絶景のせいで、はいまにも倒れそうだった。
「無理です!」
もうこの言葉しか出てこない。背後で背を押してくる無情なリヴァイに叫ぶが、
「その言葉は聞き飽きた。さっさと飛べ」
「できない! 死んじゃいます!」
足で踏ん張り、は留まろうと必死になる。