第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「まだいけるだろ」
無慈悲なリヴァイは上体を後方に倒しながらの両手をさらに引っ張る。
「身体がばらばらになりそうです!」
生理的な涙が目尻に溜まって零れそうだ。無表情でひどいことをする彼を鬼だと思った。
伝う涙にリヴァイが気づいた。
「ここまでにしてやるか」
やっと解放してくれた。
は急いで内腿をさする。痛みを和らげるために強めにだ。何しろこむら返り寸前だったのだから。
「人生で一番痛かった思い出になりました」
「馬鹿か、大げさだろ」額に手を当て、リヴァイは頭を振ってみせた。「柔軟性がまったくねぇな。先が思いやられる」
「身体を動かす機会がほとんどなかったので」
「自室でもやれ。毎日やれば額がつくようになるだろ」
次は平均台へ場所を移した。手本を見せてくれたリヴァイの動きは体操選手さながらだった。
「次はお前だ。やってみろ」
言われては尻込みする。
「できませんよ、いきなりそんなこと」
「俺のように動けとは言ってない。期待もしてねぇよ」
の腕を引っ張って平均台の端に誘導する。
「空間把握能力とバランスを養う訓練だ。端から端まで歩いてこい」
「と言われても、普通のより高いんですが」
小学校にあるような平均台と違って地表からずいぶんな高さがあった。正確にいうとの肩ほどはある。幅も狭く、足の幅より少し余裕があるくらいだ。こんなところで前転倒立や宙返りをしたリヴァイは何者なのだろう。
「落ちたら絶対怪我しますよね」
バランス感覚なんてたぶんないは落ちる自信があった。まごまごしていたら、
「ぐだぐだ言ってないでさっさとやれ! 俺は暇じゃないんだ!」
背後で怒鳴られてしまった。怖くて逆らえないので大人しく従うしかない。
「……分かりましたよ」
は梯子を登って平均台に足を置いた。思ったよりも地表から距離があって身が竦む。
「早く始めろ!」
「すりゃいいんでしょ、すりゃ!」
煽られて小声でぼやいた。両手を広げて歩き始めていく。「うぅ」無意識に変な声が漏れてしまう。
十歩頑張ったところでの集中力はもう限界だった。身体がぐらつき始める。「わ、わ、わ」わたわたと広げた両手が大きく左右に揺れる。