第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「いま目が合った気がした~」
「私も直接指導を受けたいな~」
さきほどからとリヴァイが通り過ぎると黄色い声が上がる。声の主は女兵士たちで、嬉々として頬を赤く染めていた。この声はに当てられているものではない。目の前で外套を揺らして歩くリヴァイに当てられたものだった。
(ふーん。人気があるわけね)
顔は悪くない――というより端麗だと思う。ハンジが言うには彼はとても強い人のようだし、頼れる男に惹かれるのも分かる。背が自分と同じくらいというのが減点要素だが。
しかし彼女たちはリヴァイの本性を知った上できゃあきゃあ言っているのだろうか、と甚だ疑問だった。睨む、人の部屋のドアを蹴る、口が悪い、暴力的。たった二日だけでに印象の悪さをこれだけ植えつけるほどの人間なのに。
(わっかんないわ。男は優しい人が一番よ)
首を捻りながらはかぶりを振った。
前から舌打ちが鳴った。
「きたねぇな」
リヴァイが爪先についた泥を振るっていた。
深夜遅くに降った雨のせいで地面はぬかるんでいた。ここかしこに水溜りができており、歩くたびに泥水が跳ねてブーツが汚れることを彼は嫌っていた。
立ち止まってはしきりにハンカチで汚れを拭う。
「もうこのハンカチはダメだな」
ポケットから新しいハンカチを出して拭き直す。
「いま拭いたって、また汚れると思うんですけど」
「綺麗にしておかねぇと汚れが気になって集中できなくなる」
まさかと思うが。
「汚いのとかを極端に嫌う癖がありますか?」
「泥が跳ねてるってのに平気でいる奴のほうが理解できん」
と、リヴァイはの足許を見て顔を歪ませた。
風呂に入らなかったをばい菌のように見てきたことを含めると、結論が出そうだった。
「もしかすると潔癖性ですか?」
窺うために少し近づけば、リヴァイにぴしゃっと手で制止される。
「近づくなと言ったろう、鳥頭が!」
「それ本気で言ってたんですね……いじめじゃなく」
半分白けた笑みで、近づいた分だけは下がった。
広場に辿り着くまでに何度か立ち止まっては拭くという行為をしていたリヴァイだが、不毛なことだと気づいたようで、やっと諦めてくれた。