第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
(うわ! 恥ずかしい!)
咄嗟に腹を押さえてリヴァイを窺った。羞恥で顔を赤くしているなど目もくれず、彼は厨房と対面するカウンターへと進んでいく。
「一人分頼む」
食事作りは当番制――なんてことはなく、大規模な組織だけあって調理人がしっかり雇われていた。朝のピークを過ぎた遅めの来者に、彼らは嫌な顔一つしないで皿が乗った盆を手渡す。
「君が最後かな? 寝坊しちゃったのかい」
「はい……ご迷惑をおかけしてます」
受け取っては頭を下げた。大量の皿を洗っている光景が厨房の奥に見えた。
「構わないよ。これがわたしらの仕事だからね」
和やかな顔で言った調理人をリヴァイが気づかう。
「片付けを増やして悪いな。休憩に入れないだろ」
「いやいや、本当に構わないんです。ゆっくりどうぞ」
リヴァイが腰を降ろした食卓の向かいには座った。目の前の盆を見る顔は、さっきから愕然としている。
コッペパンを手に取った。小麦の匂いをほんのり放つパンは、柔らかくなく見てくれ通りの固さだった。
(焼いてから時間が経ってるせい? でもこんなに固くなるもんかしら。フランスパンじゃないわよね)
ほかに盆に乗っているのはスープが入った大皿と果物が盛られた小皿だった。油が浮いている半透明のスープをスプーンで掬う。ジャガイモやニンジンが煮られているが、ごろごろ入っているわけでなく、割合はスープのほうが多い。
(野菜スープ? でも油が浮いてるし)
あ! とは眼を見開いた。
(お肉の塊が二つあったわ)
リヴァイに上目遣いする。
「遅かったからでしょうか?」
「なにが」
「中身が少ない気がして。残りものだから、お肉も二つしか入っていないのかなって」
食卓に片肘を置いているリヴァイが首を伸ばして皿を見てくる。
「大抵いつもそんなもんだろ」
「え!?」は眼を大きくした。ややして落ち着かせて笑う。「朝食だからシンプルなんですね。昼食や夕食はもっとボリュームがあるんですよね」
「なに言ってる。毎食そんなもんだ」
うそ!? と叫びたかった言葉は堪えた。リヴァイの眼つきが冷たいものになっていたからだ。