第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
リヴァイの背中が言った。
「阿呆な髪の毛はどうにかなんなかったのか」
「直すには時間が足りませんでした」
「寝坊するからだ。阿呆な寝癖のせいで、こっちまで志気が下がる」
(アホアホうるさいなぁ)
刈り上げられたリヴァイの後頭部を、は苦い色の瞳で見た。ツーブロックの黒髪は側頭部と後頭部が若干刈り上げられている。某人気俳優がこの髪型なので、の世界でも真似する若者が近頃多い。
ふいにリヴァイが肩越しにぱっと振り向いてきたから、は焦った。至急そっぽを向く。
「生意気な視線を感じたが」
「気のせいではないでしょうか」
ふん、とリヴァイは鼻を鳴らした。睨んでいたのを見抜かれているような気がした。
「食堂で見かけなかったが、昨夜は晩飯食ったのか」
「あのあと部屋も出ずに寝てしまったんで食べ損なっちゃいました」
言われて始めて空腹感を伴った。胃が活発に動き出す感覚がしては腹をさする。
「お腹減りました。リヴァイ兵士長はもう食べたんですか」
「起床時間は」
調子を強めた声に問われて、は気まずく答える。「六時です」
「朝飯は六時半から七時半のあいだだ。ちゃんと起きてる奴は、とっくに訓練に向かってるだろうな」
かなり嫌味ったらしかった。寝坊したが悪いのだけれど。
「食べ終わってるってことですね。すみません」
まさか朝食抜きだろうか、腹が減り過ぎて少し気持ち悪くなってきた。は元気なく言う。
「食べてきたらダメですか? 夕飯も食べてないから力が入んないですけど」
リヴァイの肩が落ちた。溜息をついたのか。
「行ってくればいいだろう。俺は外で待ってる。さっさと掻き込んでこい」
この雰囲気でとても言いづらいのだが横から窺う。
「度々すみません。食堂の場所が分からないんですが、どう行けばいいんでしょうか」
「ハンジに管内を案内されたんじゃねぇのか」
「どうやら食堂を忘れていたようです」
生きていくうえで大事な場所をハンジは教え忘れたのだった。
「役に立たねぇ奴」
溜息をつくように呟いたリヴァイは、前を見て言う。「食堂は本部の一階だ。飯の時間は過ぎてるが、まだ余ってるだろ」
連れていってくれるようである。