第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
スーツのジャケットを脱ぎつつ、は扉の外を思ってちら見する。
「廊下で待ってるのかしら。早くしないとまた怒鳴ってきそうな気がする」
シャツを新しいものに変えたかったが時間を短縮することにした。兵団のジャケットに袖を通す。
「パジャマに着替えるどころか、さらしも巻きっぱなしで寝ちゃったから何だか胸に痺れが残ってるわ」
半身を捻って背中に感じる凝りをほぐす。スーツのズボンを脱いで、これまた兵団のズボンに足を通した。
「夕方からいままでぐっすり寝ちゃったのか……って何時よ」
ベッドから腰を上げるついでに、ぴょんと飛んでズボンを尻まで滑らせた。ウエスト釦を閉めながら、机にある小さめの時計を見る。
「八時……だいぶ寝たわね」
規律では起床時間は六時。リヴァイが怒鳴るのは当然かもしれない。支度を急ぐ。
は再度ベッドに座って、膝小僧まである茶系のロングブーツを履く。
「窮屈だな~。こんなので一日過ごさなきゃならないの~」
夏ならば足が蒸れそうだ。椅子の背凭れに掛けっぱなしの外套はどうしようか。
「寒くないし、いらないわよね」
皺になると面倒なのでハンガーに掛けてラックに下げた。クローゼットの横にある姿見で全身を確認する。
「やっぱりすごい跳ねちゃってる。どうするの、これ」
ブラウンのかつらには、ひどい寝癖がついていた。何度も撫でつけるが往生際悪く何度も跳ね返ってくる。
「ちょっとちょっと、やだ~」
「遅い! 着替えるだけで、いつまでかかってんだ!」
扉の外から怒られた。仕方ないので今日はこれで我慢だ。
「いま行きます!」
声を上げて扉まで走った。開け放ってから、また勢いをつけてしまったとは舌を出しそうになった。が、正面にリヴァイはいなかった。
彼は扉横で寄りかかっていた。腕を組んだ姿勢で横目を流している。
「ようやくか。さっさと行くぞ」
「お待たせしてすみませんでした」
これでも色々と時間を短縮したのだけれど。
歩くのが早いリヴァイを駆け足で追う。修繕のせいか、あちこち色がまばらな床板は踵の音が響く。