第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
は今日一日気を張った。慣れない男のフリをして、「ボク」などと自分のことを言った。上手な芝居であったかは分からない。が、誰一人のことを女だろうと言った者はいなかった。
不安を胸に抱いたまま、けれどどこか暢気なまま、どっと疲れたの瞳はとろんと閉じていった。この世界の文字が読めることに、懐疑心などまったく湧かなかった。
06
扉を蹴る激しい音では目を覚ました。
「いつまで寝てやがる! 今日から訓練だろうが!」
外で怒鳴っている不機嫌そうな声は昨日聞いたばかりである。
は飛び起きて窓を振り返った。最後に見た景色は茜色だったのに、いまは清々しいほどの青空だ。朝になっていた。
がたがたと悲鳴を上げている扉に飛びついた。ドアノブを捻って急いで引く。
「わっ!」
「!」
目の前にリヴァイがいた。蹴り上げた瞬間の彼の足を腹に一発食らいそうになって、は一歩後ろに下がった。ヒットしていたら今夜の星になっていたかもしれない。
眼を丸くしたリヴァイは切れ長の目許に皺を寄せた。
「いきなり開けるんじゃねぇよ、当たりそうになったろ」
「すみません、寝てたので頭が働いてなかったようです。急かされて早く開けなきゃって、それしかなくって」
はぼさぼさの頭をさする。
顔を微妙に逸らし気味にリヴァイが見てきた。
「昨日のまんまだな、お前。皺くちゃじゃねぇか」
「え」ぱちくりして、は自分を見降ろした。「そのまま寝ちゃったんだ」
衣服がスーツのままだった。上質なものなのに、しわしわになってしまっていた。
まだ眠気まなこだったの瞳は見開かれた。「やばい!」焦って頭を抱えて首許まで手を滑らせる。
「何がやばい?」リヴァイは胡散臭そうにした。
肩に髪が垂れていないことに一息ついたはふやけて笑う。「いえ、こっちのことです」
ちゃんとかつらを被っていたようでよかった。ところどころ跳ねているのを手触りで感じたけれど。
「何時だと思ってたんだ、早く支度してこい」
リヴァイは扉をばたんと閉めた。音の大きさから機嫌が悪いことを悟った。