第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「いや――! もう出てってください!」
女たちは身体を捻って真っ赤な顔を振り続ける。が、背中と尻が逆に丸見えであった。
「なんでよ。私ガサツで男っぽく見られるけど、君たちと同じ女よ?」
「違いますよ! 誰ですか、その人!」
顔を反らしている女が健康的に焼けた腕を伸ばして指を差した。
どうしてを見て恥ずかしがるのか。眼を丸くして自分を指差す。「え? ボク?」
自分の発言が耳に聞こえたは眼を瞠った。いま「ボク」と言った。そうだ、はいま男なのであった。
ハンジはを非難する。
「だめだよ、ちゃっかり入ってきちゃ! 女の子たちが着替え中なんだよ! 裸に興味を持つ年頃なんだろうけどさ!」
「ごめんなさい、その、気づかなくて」
「謝る前に部屋から出る!」
ハンジに後ろを向かされて、は廊下に追い出された。
向かいの窓からカラスが横切る。「アホー」と鳴いた。溜息混じりには言う。
「そうか……、相部屋だと着替えが困るんだわ。それにお風呂も女風呂に入れないし。だから個室なのね」
気にも留めていなかったが、男装生活をするならば一番困ることだといえよう。おそらくフェンデルが気を回して一筆添えてくれたのかもしれない、とは思ったのだった。
ベッドに腰を降ろして閲覧室から借りてきた資料には目を通していた。
「びっしりだわ。細かい字だし、目が疲れそう」
おおまかに斜め読みし、ページを捲っていく。巨人と思われる画が載っており、歪んだ線からみてハンジが自分で書いたものだろうと思った。部位から矢印が伸びていて注釈されている。とても熱心に研究していることが文面から伝わる。
「画力があるのかないのか、何だか不気味な画」
資料をベッドに放っては寝転がった。
巨人の背丈は二メートルから十五メートルと様様らしい。ガリバー旅行記の第二篇、国民が全員大きくてガリバーが小人になってしまう物語が頭に浮かんだ。
「嘘のようなホントの話」
けれどやっぱり嘘のよう。