第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
頭に湯気を漂わせて、兵士が男湯から出てきた。ハンジは礼をされる。
「早いね、もうお風呂すませちゃったの」
「訓練で汗を掻いてしまったので。すみません、先に頂いてしまって」
兵士はちょっと慌てていて、両手をびしっと伸ばした。まだ夜ではないのに、のんびりと湯に浸かっていたことをばつ悪く思ったのかもしれない。
「ごめん、咎めたつもりじゃないんだ、ただ声をかけただけでさ。行っていいよ」
ハンジが眉を下げて苦笑すると、兵士は頭を深く下げてから去っていった。
は序列を感じ取っていた。――話しやすそうで気さくだがハンジは階級が高いのを忘れてはいけない。
「は大浴場を使ってもいいし、部屋のお風呂を使ってもいいよ」
「部屋にお風呂がついてるんですか?」
「三階の個室だけね。風呂っていっても簡易的なもので、一階から湯を運んでこないといけないから使い勝手悪いけど」
「ボクの部屋は三階なんですか」
ハンジは鍵を揺らす。
「一階から二階が相部屋で、三階は上官用の個室になってる」
エルヴィンから鍵を渡されたとき、ハンジが意味深な眼を寄越してきた理由が分かった。平兵士のが相部屋ではなくて個室なことを不思議に思ったのだろう。
でも彼女はそのことについて深く切り込んでこなかった。
「ちょこっと二階を見せておこうかな。二人部屋から六人部屋までさまざまなんだ」
四角い窓が並ぶ直線の廊下を歩きながらハンジはそう言った。適当に選んだかは分からないが一つの扉のノブを握った。横にはネームプレートが六枚貼ってある。
「ちょっと部屋を見せてね~」
とノックもなしに躊躇なく扉を開けた瞬間、甲高い悲鳴が上がった。
「きゃあ――!」
「ありゃ、着替え中だった?」けろっとした感じでハンジは指先で頭を掻く。
はばっちり見てしまった。両脇に二段ベッドが並ぶ室内の真ん中に、下着姿の女が三人いる。
慌てた様子で女たちはシャツで胸許を隠した。が、眩しい生脚が丸見えである。
「ハンジ分隊長! ノックくらいしてくださいよ!」
「ごめんごめん、まさか着替え中なんて思わないからさ」
室内に入ってハンジは扉を閉めた。というのに悲鳴は収まらない。