第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
印象をよくした一雫が蒸発していく。怒り心頭である。ぎりぎりと歯を噛み締めながらリヴァイは唸った。
「ふざけやがって。何しにきたんだ、あいつ。実は住むところがなくて、雨風しのぐためとかじゃねぇだろうな」
力任せに扉を足蹴りすると、しーんと大人しくなったようだった。
05
部屋が一瞬揺れたような気がして、扉が大きな悲鳴を上げた。
「な、なに?」
簡易ベッドで頭を抱えていたは、そろりと背後の扉を見つめた。しんとしている。廊下に鬼でもいるのかと、そんな恐れを抱いて扉に近づいた。細かな傷があるドアノブを掴んで、そっと開けてみると――
憤怒の情を乱されたとでも言うべきか、三白眼をぱちっと開けたリヴァイが隙間から見えた。扉が開いたことで動揺したのか。
は急いで扉を閉め直した。後ろ手にドアノブを握ったまま立ち竦む。
「あの人、もしかして扉蹴った?」
潜めた声で独言して横目を後ろに回す。廊下から音はしない。
「さっきの独り言、聞かれた?」
それで怒って扉を蹴ってきたのだろうか。思い返すとベッドの上で喚いた後悔は、ここで任務につく兵士たちからしたら、けしからぬものだったろう。
自室とはいえ壁が薄いようだ。一人だからと気を抜かず、発言には気をつけたほうがよさそうである。
「もういないよね?」
もう一度扉を開いて廊下を窺ってみた。去っていく足音は聞こえなかったが、リヴァイはもういなかった。
音が響かないように扉を閉めて鍵をかけた。溜息をつくようにして改めて自分の部屋を見渡した。
「今日からここが私の部屋……か」
八畳ほどの室内には、年つきでよい具合に飴色に染まっている木製のベッドが置かれていた。布団とシーツは新品のようで清潔な香りがした。
装飾の木彫りなどないクローゼット。板張りの壁に打ち付けられているハンガーラック。生活していくうえで必要最低限の家具しかない。