第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「ん?」と首をかしげ、ハンジは反射する眼鏡越しに眼を見開いた。も瞳を大きくする。
「もしかして、明日からボクの教官をしてくれる人って」
「俺だ。不運だったな」
言うと、青汁を飲んだみたいにの顔が歪んでいった。気持ちが顔に出やすい人間は分かりやすいが、失礼な奴だともリヴァイは思った。こんなのを指導しなきゃならないのかと思うと、いまから疲れる。
「リヴァイが直接指導するの? ……へぇ」
ハンジは頭を垂れて不憫そうにの肩を叩いた。
「ほんとに不運だな、かわいそうに。でも頑張るんだよ」
「消沈するほど、ボクってかわいそうな状況なんでしょうか」
不安そうには胸許で両手を合わせる。
女々しくて、吐き気がするほど仕草が気色悪かった。じわりじわりとオカマに見えてくる。妙な性癖を持ち合わせていなければいいが。
なぜかしょんぼりを装ったまま、ハンジはそろそろ退散するようだ。
「じゃあ私はここで失礼するね。研究の続きがあるからさ」
ゆるゆると手を振るハンジの背中に、気づいたようにが声を上げた。
「案内してくださって、ありがとうございました!」
どうしてハンジが落ち込むのか。首を捻っていたら、が上目遣いしていることに気づいた。
(本当に気持ち悪いな、何だコイツ。男の眼はこんなに艶っぽかったか?)
身の危険を感じて、リヴァイの足が一歩下がる。
「なんだ」(男はごめんだ)
「明日からご指導のほど、よろしくお願いします」
はぺこりと頭を下げた。
リヴァイは拍子抜けした。「あ、ああ」
「それでは失礼させていただきます」
そう言ってくるっと自室の扉に向き直り、は部屋に入っていった。
リヴァイは廊下で佇み、
「ちゃんと礼儀が言えるじゃねぇか」
ほんの一雫だけの印象がよくなった。が、ややして――
「この組織って身の危険があるとこなの!? あー、はやまったかな!? それに訓練って……体力に自信ないんだけど、どうしよう~!」
扉の中からクリアでないけれど嘆きが聞こえてきた。