第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
男から離れた。「いや、人違いだったようだ」
「はぁ」と油が切れた機械のように頷いた男は、ちんぷんかんぷんだったろう。
ハンジはにこりと笑って男の肩に腕を回した。
「名前は知ってるの? 彼は・デッセル君。ちなみに今日からリヴァイの隣人だよ、よかったね」
「何がいいんだか、さっぱり分かんねぇが」
「こっちの彼はね、リヴァイっていうんだ」と眼を合わせたハンジはリヴァイのことを紹介する。「兵士長をやっててね、噂で人類最強っての聞いたことあるでしょ?」
「おい、くだらねぇことを言うな」
「人類……最強? 強い方なんですか?」
は青い血管が透ける小首をかしげた。リヴァイの通り名を知らないのか。正直そんなあだ名を勝手につけられて迷惑に感じているが、耳にしたことがないという彼の反応を珍しく思った。
ハンジもアーモンド型の眼を丸くしている。
「聞いたことない? 街で有名なんだけどな」
「そうなんですか?」
「一個旅団並の強さを持つってくらい最強なんだよ」
いい加減にしてほしい。人のことを勝手にべらべらと得意げに喋られて不快だった。気持ち悪い痒みが背筋に広がり、リヴァイは眉を顰める。
リヴァイの視線に怯えた様子を見せながらも、は聞き返した。
「一個旅団って、なんですか?」
馬鹿か、と思った。貴族の端くれのくせに、そんなことも知らない温室育ちらしい。
親切にハンジが回答する。
「軍の編成単位のことでね、およそ兵士四千人で一個なんだ」
「ってことは、一人で約四千人相当の力があるってことですか?」
「そうそう。それだけ彼は価値があるってことだね」
「ふーん」と声には出さないが、はそう言いたそうにしていた。半信半疑というよりも、疑いの色が強い眼で見てくる。
信じようが信じまいがどっちでも構わないが、生意気な焦げ茶の瞳が気に障った。
「俺の顔に何かついてるか」
凄めば、「いえ、なんでもありません」とは怖がって双眸を彷徨わせた。
「ちょっとちょっとすっかり怯えちゃってるじゃん。お隣同士なんだから、仲良くしなきゃこれからやりづらいでしょう」
の前に滑り込んでハンジは庇う。
「仲良しこよしで指導ができると思うか」