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水平線に消えゆく[進撃の巨人/リヴァイ]

第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)


 ハンジが管内を案内していると言っていたが、もう部屋に戻っているだろうか。顔合わせのためにリヴァイは兵舎の三階へ向かっていた。
 律儀だと思う。明日の朝いきなり叩き起こしてやって、そのまま指導を始めればいいではないか。何もエルヴィンの指示通りに動くことはない。意外にも従順な自分を気持ち悪く思った。

 階段を登って廊下の角を曲がる。まっすぐ行けば自室が見えてくる所にハンジの姿があった。私服姿の見ない顔の者が隣にいるけれど、おそらく新兵なのだろう。遠目で見た印象は、体型からして一瞬男に見えなかった。スーツを着ているから男なのだと脳が認識したに過ぎない。

 近づいてくるリヴァイにハンジが気づいた。片手を挙げる。
「やあ、リヴァイ。サボって昼寝?」
「なわけねぇだろう。てめぇと一緒にすんな、クソ眼鏡」毎度のことだが不真面目な奴である。「そいつが新しく入った新兵か」
「情報が早いね。エルヴィンのとこに寄ってきたの?」

「まあな」
 同じ背丈ほどの男をリヴァイは見た。
「特別待遇が聞いて呆れる。貧弱そうな身体はまるでモヤシだな。日光浴びてんのか、おい」
 古びた兵舎が哀れに思うほど高価そうな衣服だ。貴族のことをまだ引きずっており、眼つきが冷たくなった。

 びくりと肩を揺らした男は、血色のよい唇をほんの少し開けた。が、怖がらせてしまったようで言葉が出ない。
(挨拶もできねぇらしい)
 眼つきはさらに冷たくなる。群青色の瞳で睨む動作は自然と両眼を凝らしていて、リヴァイにふといつかのことを呼び起こさせた。

「お前は」
 眼を細めて顔を寄せると、男は仰け反る。
「な、なんですか」

 予算審議の帰りに出くわした変な女。のっぺらぼうの顔面に彼のパーツが違和感なく収まる――気がした。が、目の前で唇を震わせている人物は男だ。そして連行されそうになっていた人物は女だった。
 世の中には自分にそっくりな人間が三人いるという。ならば彼がその一人だったのだろう。
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